外出したことを伝えると酷く落胆した様に息を吐く夫を見るのが、ゆうこは嫌だった。
それでも彼女は外に出ることは止めなかった。
自分の嫁ぎ先で過ごしていると息が詰まってそれこそ死んでしまいそうだと感じていたから。

「おかえりなさい」
「ただいま」

ゆうこがこのゾルディック家に嫁いだのは二年ほど前のことだった。
暗殺家業を行っている共通点もあり、元々面識のあったゆうことイルミが親の意向で結婚することになったのは極自然のことであった。
イルミは結婚などには興味がなさそうであったし、ゆうこもこうなることを何となく分かっていて抵抗する気もなかった。
ゆうことイルミの結婚生活は意外にも上手くいっていた。
イルミといる時間を重ねるごとにゆうこはイルミに惹かれていった。
ゆうこの中の恋心は膨れ上がり、そのあとは穏やかな波に変わっていった。
ゆうこは昔から熱しやすく冷めやすい性格であったため、この政略結婚とも取れる結婚では相手にすぐに飽きて殺してしまうこともないだろうと予測していた。
第一にゾル家の長男を殺すことなど自分には出来やしないとゆうこは理解していた。
しかしそんな予想は外れることになる。
ゆうこは突然イルミに飽きてしまった。
それから飽きては惹かれ、飽きては惹かれを何度も繰り返していたがゆうこはそれを態度に出すことは決してなかった。
飽きたと伝わってしまえば最悪殺されるだろう。
ゆうこは嫁ぎ先の残酷さや冷徹さを十二分に理解していたのだ。
イルミのことは嫌いではないけど、どこか怖いとゆうこは感じていた。
彼は思いこみが激しかったし、ゆうこがそれを弁解することもできなかった。
なぜなら彼がゆうこのことを知り合った当初から、深く狂気的に愛していることなどゆうこは知りもしないのだからだ。

「ゆうこって律儀だよね」
「どうして?」
「いつも外に出てるのはオレを探すためだろ?」
「うーん…そうじゃないけど…」

気晴らしのためだとは言えなかった。
もうゆうこはイルミの思い込みに関しては諦めていたし、軽く否定するだけになっていた。
イルミの小言もゆうこの耳を通り抜けていくのだった。

「…外に何て出なくていいのに」
「お店を見るのが楽しくて…ごめんなさい」
「そんなに外に行きたいなら今度からこれを付けて行って」

イルミはポケットから小さな包みを取り出した。
それを開けると中からは指輪が出てきた。
ゆうこもこれには驚いた。
まさかイルミがこんなものをくれるロマンチストだなんて夢にも思っていなかったからだ。
それに指輪についている透き通るように輝く青や灰色に見える綺麗な宝石にゆうこは目を奪われてしまった。

「綺麗な宝石…」
「ダイヤモンドだよ。ゆうこのための特別製」
「…ありがとう」
「外出するときはこれを左手の薬指にはめて行く。いいね」
「う、うん」

イルミが早速その指輪をゆうこの左手の薬指にはめてやろうとした時にゆうこは恐ろしいものを見てしまった。

「イルミ、左手の薬指が…!」
「ああこれ?ダイヤモンドにしたからさ」
「え……?」
「オレの左手の薬指でダイアモンドを作ったのさ」

ゆうこは絶句した。
人骨からダイヤモンドが生成できることは知っていたが、それをこんな形で見ることになるだなんて。
イルミがここまで狂っていたことに気付かなかったし、それまでこんな恐ろしいことに気付かずに過ごしていたという事実が恐怖という感情になってゆうこを襲った。
この指輪をはめていればどこに行ってもオレを思い出すだろ?と当たり前に言うイルミのことをゆうこはぼんやりと見つめることしか出来なかった。
きっとイルミのことだからゆうこがきちんと指輪を付けて外出しているかどうか確実に確かめるはずだ。
イルミはぼうっとしているゆうこを見てどうしたの?と言って首を少し傾けた。
嬉しいのかな、イルミはそう結論付けるとゆうこを強く抱きしめた。
こんなの、もう外出なんて永遠に無理じゃないか。
イルミに抱きしめられたままゆうこは小さく息を漏らした。

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