どうやら私は成人してから体が弱くなったらしい。
年のせいかとも思ったが、そうではないと信じたい。
一日中遊ぶ体力がもうないとは信じたくない…

今日もそうだった。
先輩や同期達と遊んでから居酒屋で飲んでいたら頭痛がしてきた。
元々酒に強くないけれど、これは飲みすぎからの頭痛じゃない。
何とか頭痛を無視するためにも酒を煽った。
それでも頭痛は治まらない。
酒のせいで頭はぼうっとする。
しかも吐き気までしてきた。
何とかそれらを顔に出さずにやり過ごした。

店を出て一本締めをした。
やっと終わる…
酒を飲みすぎて足元はふらつくし頭痛と吐き気は酷いし最悪だ。
耐えきれず壁に寄り掛かって、ずるずるとしゃがみ込んでしまった。

「ゆうこちゃん大丈夫?」
「大丈夫、です」

送って行こうか?と先輩が聞いてくる。
先輩優しい…男の人のこういう優しさホントいいと思う…
真とか絶対心配とかしてくれないし…
しゃがみ込んだ私のために同期達も水やらを買ってきてくれた。
自分の不甲斐なさが身に染みる。
ちゃんと体調管理していればこんなことにならなかったのに。

「家まで帰れる?これじゃ電車キツイでしょ」
「タクシーでも捕まえます…」
「心配だし着いて行くよ」
「え、…それは流石に悪いです…」

少し冷たい風のせいで酔いが覚めてきた。
その代わりに頭痛と吐き気が強くなった。
頭痛のせいでどうしても俯いてしまう。
早く、帰らなければ。
真と一緒に住んでいるあの部屋が恋しく感じる。
タクシー探してくると先輩が隣で言った。
悪いなぁ…
今度何かお礼をしなくては。


「ゆうこ!」

聞き覚えのある声がした。
真の声だ。
頭を上げると先輩や同期が真を見ているのが見えた。
あれ、ホントに真だ。
私、この店で飲むこと真に伝えてたっけ?

「ご迷惑お掛けしてすいません」
「…もしかしてゆうこちゃんの彼氏さん?」
「そうです。花宮真といいます。今回はゆうこが飲みすぎたみたいで…」
「い、いえいえ大丈夫です」

先輩と真が話してる。
何か変な感じだ。
それから真は私の腕を掴んで立ち上がらせた。

「では失礼します。これからもゆうこと仲良くしてやってください」

いい子ちゃんの皮を被っている時の真だ。
この真をちょっと面白いと私は感じる。

足はやっぱり少しふらつく。
酒が完全に抜けてない証拠だ。
真が腰に手を回してきた。
真なりに心配してくれているんだろう。
頭痛と吐き気は収まらない。
周りの喧噪が消えていく。

「飲みすぎだバァカ」
「…ごめん」

少し遠くにあった駐車場には見慣れた真の車があった。
車で迎えに来てくれたんだ…
それから割と乱暴に助手席に放り込まれた。
真は運転席に座って、いつも私が使ってる水筒を押し付けてきた。
蓋を開けるといい香りが鼻を擽った。

「味噌汁…しかもしじみの…」
「それ飲んで酔い覚ましとけ」

真が珍しく優しい。
逆に怖いんだけど…

「俺の好意を無下にするのか?」
「…毒でも盛られてるのかと思って」
「うっせーよ」

怒られた…。
エンジンを掛けられて車は走り出した。
味噌汁を飲むと暖かさがじんわり体に広がった。

私は真の作る味噌汁が大好きだ。
材料はほぼ同じはずなのに真が作ると何故だかとても美味しい。
あ、でも何か秘密の隠し味を入れてる所を見たことがある。
それが私と真の味噌汁の違いなんだろうけど、その隠し味が何なのかは絶対に教えてくれないのだ。
白い粉末に見えたけれど、多分私が知らないような調味料なんだろう。

私は朝と夜に必ず真の味噌汁を飲んでいる。
今朝ぶりの味噌汁に、私の体は喜んでいた。

「お前あの男に狙われてたな」
「…先輩のこと?それはないよ」
「あるんだよ。危機感持てバァカ」
「うーん、そうかなぁ」

味噌汁を飲み干してぼうっとしていたら、いつの間にか頭痛も吐き気も消えていた。
真の味噌汁はまるで薬だ。
飲むだけでこんなにも体が楽になるなんて。
窓の外を見るとキラキラした光が飛んでいた。

「色々ありがとう」
「二度と飲みすぎたりすんなよ」
「…なんか頭痛くて飲んで忘れようと思ってさ」
「そうだったのか…。これから気を付ける」
「何を?」
「お前が体調悪くならないように健康管理してやるんだよ」
「ありがとう…?」

真に健康まで管理されるのか。
まあ、それも悪くないかな。
瞼を閉じるとぼんやりと睡魔が襲ってきた。

「…今日は多すぎたな。調節しねーと」
「何を?」
「毒、だよ」

目を瞑っていたから真の顔は見えなかったけど、多分少し笑っていたんだろう。
真のことだから本当に毒を盛っていたりして。
昔実行されていたらしい浮気対策みたいじゃないか、そんなの。

睡魔に負けた私はじんわりと意識を落とした。
隣の真が恐ろしい程に真剣な顔をしていたのを私は知らずにいる。

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