私達はそれなりに上手くやれていたと思っていた。
ちょっと友達の延長線上みたいな所はあると思っていたけれど恋人っぽいことだってした。
結局最後大我に振られてしまった訳だけれども。
バスケに集中し過ぎて私との時間を作れないからだと彼は言う。
大我のアイデンティティであるバスケの時間を割いて欲しいなんて思ったこともなかったのに。
だからと言ってそんなことを伝えたい訳じゃない。
バスケをしている大我のことを好きになった私のただのどうしようもない強がりだ。
物わかりのいい女を演じたかった訳じゃない。
と、言ってしまえばそれはただの言い訳になってしまうのだろうか。

「頑張ってね。ずっと応援してるから」
「おう、ありがとな」

大我は少しだけ困った顔をして笑った。
サヨナラだって分かってた。
多分大我は二度と私の元には帰ってこない。
相談したことも笑い合ったことも泣いたことも。
これからはもう全部一人なんだと思った。
だから涙は出してやらなかった。

別れてからも学校では普通に振る舞った。
付き合う前と付き合ってからそして別れてからも私は大我の前で粗相を犯すことはなかった。
元々は友達だったのだ。
だから、元に戻っただけなのだ。
でも観戦に行ったウィンターカップの決勝戦で大我が泣いていて、私もちょっと泣いてしまった。
何で泣いてるんだろうって思ったけど答えは出さないままにしておいた。


「アメリカでも頑張ってね。ずっと、応援してるから」
「…ありがとな。ゆうこも勉強とか色々頑張れよ」

私と大我の最後の会話はあっさりと終わった。
別れた時と同じような会話をした。
その頃にはもう大我への恋心なんてものはちょっと遠くに行っていた。
だから大我が自分の夢を追いかけて遠くに行ってしまっても未練がましい言葉なんて掛けなかった。
涙なんて流さなかった。
大我が学校に来る最後の日に、ただ笑って彼にサヨナラを言った。
私の笑う顔が好きだと大我が言っていた。
だからそれが私の出来る最大の餞別だった。
さようなら大我。
あなたは私の青春だった。












「あ、」

大我を見かけたのは本当に偶然だった。
友人の結婚式の帰りで、私はそれなりに粧し込んでいた。
その頃彼は日本じゃもう知らない人がいないぐらい有名になっていた。
テレビでその活躍が流れない日なんてない。
街中で人に囲まれていたから嫌でも目に入ってしまった。
求められるサインとかツーショットに応じる大我を少し離れて見た。
人に求められると断れないところとか変わってない。
ちょっと困った顔して笑う所も全然変わってない。

大我がこっちを見ていないことはわかっていた。
私はただの通行人の1人で、彼にとってはもう過去の人で、そして今後も関わることのない人間の内の1人なのだ。
だからすぐに立ち去った。
大我はどんなに手を伸ばしても届かないところまで本当に行ってしまったんだ。
サヨナラなんだと、別れた時には分かっていた。
でも本当は知らないふりをした。
あの時大我は確かに私のもので、それは嘘じゃないんだと信じたかった。

「ゆうこ!!」

私の名前を呼ぶその声が聞こえて体が硬直した。
懐かしいその声に、全身から汗が噴き出すのを感じた。
心臓がバクバク言っていて、息が苦しくなった。
大我が私の腕を強く掴んでいた。
振り返ると目が合って、そのまま大我に腕を引かれて走り出した。


人目の付かない細い路地に辿り着いて走る速度が遅くなったから、私はその手を振り払った。
まだ大我の熱が残る腕が妙に虚しかった。

「俺、やっぱりゆうこじゃないとダメだ」
「…今更何言ってんの?」
「今更だって思うのは当たり前だよな。でも俺はゆうこがいないとやっぱ楽しくねぇ」

大我が下を向いて頭をガシガシとかいていた。
これは恥ずかしい時の仕草だ。

「遅くなって悪ぃけど、もう一回チャンスくれ」

大我が私の手を握って真っ直ぐ目を見て言ってくるもんだから私は彼の目を見ることしか出来なかった、

「どんなことがあっても離さないでいてくれる?」
「当たり前だ」
「信じていいの?」
「俺だけを見てればいい」

そう言われてキスをされた。
可愛くなんてない、大人のキスだった。
その上達したテクニックに言い様もない虚しさを感じる。
と同時に成熟した大我を感じて身体が疼いた。

「茨の道でも?」
「守るよ、俺だけのプリンセス」

大我はその逞しい右手で、私の薬指にはめられてる指輪を優しくなぞった。
再び口付けられ、そのまま手を絡められて腰を抱かれた。
近くのタクシーに縺れるように乗り込んで、私達は夜に紛れた。

忙しくなるなあ。

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