同僚の尾形と残業後に飲みに行くことになったのはなにがきっかけだっただろうか。
隔週華金に尾形と飲みに行くのがここ最近のストレス発散になっている。
尾形は変なアドバイスをくれる訳ではないのですごく話しやすい。
尾形は私の人生の愚痴を聞いてくれているが、尾形は何が楽しいのか…
なぜいつも私の誘いを断らないのだろうか…

「尾形は彼女とかいないの」
「いたらお前とこんな所いない」
「ですよねー」

30歳も間近になると焦りもする。
友達はみな結婚しているか彼氏がいるかのどちらか。
私も人生を共に過ごしたいと思える人と出会いたい…
ということでマッチングアプリを初めてみたが、マッチングアプリ界隈での私は最弱であった。

「この前の男ホストでさあ、マジであり得なくないか」
「そうだな」
「俺の事応援してるでしょ、とか言われたけどはあ?って感じ」

ホストに当たるわマルチに当たるわ宗教に当たるわで結果は散々。
もう向いてないからやめるか?という域まで来た。

「他に収穫はないのか」
「…実は、明日会う人はすごく良さそうなんだよ聞いてくれ」
「…」
「興味なさそうな顔しないでよ」

尾形はビールを飲みながら鍋を突いていた。
次会う相手は私と同い年で、同じ業界で働いているらしい。
顔写真がないことだけが怖いがもうここまで来たらまともそうであれば誰でも会う心意気だ。
暴行を受けて殺されなければもうどうだっていい…

「しかもおばあちゃんっこって可愛くないか〜??」
「…」
「返事とかも結構硬派っぽくてちょっと素っ気ないところが更によいんだよねえ…好きかもしれん……」
「顔は見たのか」
「写真ないからわかんないけど、顔は生理的に無理でなければもうどうだっていいんだよ。結局人間性なんだよ人間性、わかるか尾形」
「わからん」
「人間性がよい人でなければ共に生活することなんて出来ないんだよ。顔なんて3日で飽きるしどうとでもなる」
「面食いのお前がそれを言うのかよ」
「私は過去の教訓から学んだ…顔も条件もいい男がこの年までフリーでいることなんてないってね。もしそういう男がいたら余程の欠陥があるのだよ、わかるか尾形」
「わからん」

面食いで有名だった私もここまで失敗を繰り返すと考えを改めざるを得なかった。
通販サイトでどの系統の服を着るか漁るも、ここまでくると何がいいのか全く分からなくなっていた。

「どんな感じがいいかな〜尾形はどれがいいと思う?」
「なんでもいい」
「聞いただけ無駄だった」
「そもそも麻雀、2ch漁りが趣味の女が正攻法で恋人ができると思っているのか」
「正論突くなって…モテないぞ…」

しかし私は知っているのだ…
尾形はすごくモテるということを…
仕事できる、顔がいい、とくれば女子からは羨望の的となるのだ。
まあ捻くれてるし優しくないし嫌味言うし性格が終わっていらっしゃるのだが…
ちょうどいい時間になってきた。
私は目の前のジョッキを飲み干した。

「よし、麻雀いくぞ」
「明日その男と会うんだろ。いいのか」
「景気づけだ!流石に朝まではいかないし。きりのいいところで帰る」
「…その台詞、耳が腐るほど聞いたぞ」
「今日はマジで大丈夫だから」
「お前のその言葉は信頼に値しない」
「うるさいな行くんだろ行くぞ」

何だかんだ付いてきてくれるので尾形も麻雀が好きなんだろう。
大学でハマった麻雀は私にとって生涯スポーツと言ってもいい。
よく行く雀荘に行き、顔見知りの店員に声を掛けられる。

「また来たんだ」
「尾形と飲んだら締めに麻雀が鉄板なんで」
「そう言っていつも朝までいるじゃん…」
「そういう日もある…」
「そういう日しかないだろうが」

尾形の正論パンチが決まったので私は黙った。















「やばい、始発もうやってる」

満足した頃にはすでに外は明るくなっていて、始発がすでに走り始めていた。
なんなら商業施設もやっていた。
何だか盛り上がっちゃって…
だって凄い配牌がよくてボロ勝ちしちゃったんだよ…
今日の約束は午後3時から。
まだ間に合うか…?!

雀荘を出て駅を目指す。
やっと駅が見えてきた、というところで尾形に手を取られて進めなくなる。

「別の近道あるの?」
「そうじゃねぇ。家帰ったら絶対寝るだろ、どっかでシャワー浴びて行けよ」
「確かに寝ブッチしそう…じゃあそうするわ。ありがとう」
「俺も行く」
「いやいや流石に悪い!」
「俺が行ける所探しておくからお前は服でも買ってこい」
「何だかすみません…じゃお言葉に甘えて!」

私は小走りで商業施設へ向かった。
下着や服を見繕う。
徹夜明けなので正常な判断ができているか疑問だがまあいい。
一日分のスキンケアも買いながら尾形からの連絡を待つ。
しかし尾形、珍しいなどうしたんだろうか…気味悪いぐらい優しいぞ…



尾形から送られてきた位置情報に向かうとすごく良いホテルがあった。
こんないいところでいいのか?!
デイユースでチェックインしてあるようで、尾形の手にはカード型のキーがすでに収まっていた。
充電器を借りて二人で部屋に向かう。
尾形がエレベーターの中でペットボトルをくれた。
暗くて見えないから何かわかんなかったけど、飲んだら水だった。
エレベーターが止まる前に水を飲み干した。

「シャワー浴びるだけなのにすげえいいところだ…」
「俺が払うからいいだろ」
「いやいや私が払うからマジで」

部屋に付き、荷物をベッドに投げてすぐに風呂にダッシュした。
こんなこともあろうかと化粧道具一式持ってきておいてよかった〜
何なら化粧道具一式持ち出すことが多すぎて、道具を減らすためにスキンケア頑張っておいてよかった〜

死ぬ気でシャワーを浴び、死ぬ気で髪を乾かして布団にダイブした。
尾形はテレビの案内から飛べるクソゲーで遊んでいた。

「じゃ寝るわ…2時に起こして」
「覚えてたらな」
「まあ私もアラームかけるから頼むわ…」

アドレナリンが切れたのか、私はあっさり眠りについた。
2時に起きて…30分で化粧して……それから…



















ゆうこが眠りについたのを確認して、彼女の携帯のロックを解除する。
いくつもインストールされている出会い系アプリをまず消した。
アラームも止めた。
他の連絡ツールに入っていた男の連絡先とやり取りも消しておく。
こいつが飲み干した、睡眠薬を混入させた水の空ペットボトルを自分のカバンに仕舞う。
フロントに電話し、このまま宿泊する手筈を整えた。

自分の携帯に残るゆうことのやりとりを見直す。
好きかもしれない、と俺のことを言っていた。
姿も見ず会う前にそんなことを思うのは、本当に俺のことを愛しているからに違いない。

徹夜と睡眠薬の効果でゆうこは何をしても起きやしない。
痛みを与えても起きないことを確認してゆうこを犯した。
俺のものになるのだから順番はもう関係ない。

副作用のせいで半年前にピルを止めて、月経が再開していることは知っている。
そして今日が排卵日であることも把握してある。
精を吐き出して、ゆうこを抱きしめる。
同じ香りに包まれて境界線が曖昧になっていくのが心地よい。






「ん……」
「起きたか」

目が覚めたらしい。
半分しか開いていない目で俺を見上げる。

「あれ…尾形、どういう状況……」
「それより、もう西日が差してるぞ」
「うわっ…終わった……」

ゆうこは体を捻って俺に背を向け携帯を確認している。
もう何も残っていないというのに。
え、だとかは、だとか困惑する声が聞こえる。
まあそうだろう。
携帯を手放し、俺の方に体を捩じらせたゆうこは再び眠そうにあくびをしていた。

「もう一生彼氏できない気がする……」
「俺がもらってやるからいいだろう」
「、そうなの…」
「来月には一緒に住もう。部屋も探してある。子供が出来たら仕事は休んで家にいるんだ。麻雀はゲームでも何でも用意してやる。あとは2chでも漁っていればいいだろう」
「ん………」
「付き合おう、今年中には籍を入れる」
「ああ、うん…不束者ですが……」

今一度強く抱きしめるとゆうこがきゅ、と変な声を出してそのまま寝た。
まだ薬の効果が残っているのだろう。
もう少し寝かせてやるか。
こいつが起きたら今日買った服を着せて、最上階にある店でうまい肉でも食べようか。

喉にキスを落とす。
少し汗ばんだ喉が、ゆうこが生きているという事実を俺に教えてくれる。
携帯の録音機能を止めて、バックアップがしっかりとれているのを確認した。
ゆうこの髪を撫で、指で遊ぶ。
薬指のサイズを測って、俺も目を閉じた。
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