「ゆうこさん、」
「宮地くん来てくれたんだ!」

俺とゆうこさんは大学のサークルで知り合った。
初めて新歓に行って緊張していた俺に初めて話し掛けてくれたのがゆうこさんだった。
結局俺はゆうこさんが所属するそのサークルに入ることになり、それなりに楽しいキャンパスライフを送っていた。

「ゆうこさん何時もより綺麗に見えますよ」
「宮地くんが褒めてくるなんて珍しい!ありがとう!」
「馬子にも衣装ってやつですかね」
「なにそれ〜!上げて落とされた気分!」

ゆうこさんはそう言って笑った。
ゆうこさんに付き合って1年になる彼氏がいることを知ったのはサークルに入ってすぐのことだった。
ゆうこさんがその彼氏について語ることはほとんどなく、彼氏について聞かれるとゆうこさんは顔を赤くして黙ってしまっていた。
俺がその彼氏を見たのは偶然だった。ゆうこさん達2人がデートで映画館から出てくるところを偶々目撃してしまったのだ。俺は咄嗟に身を隠して二人が過ぎ去るのを待った。
心臓がバクバクいっていて、俺はしゃがみ込んで心臓が収まるのを待っていた。
何故かわからないけど汗と涙が止まらなくて俺は思わず笑ってしまったのを今でも鮮明に覚えている。

「ゆうこー」
「あ、」
「旦那さんが呼んでますよ、ゆうこさん」
「ん、じゃあまた後でね!」
「はい。何か失敗とかしないでくださいね?後輩として恥ずかしいですから」
「しないよ!……たぶん!」

相変わらずこの人は変わらない。
俺は何だか悲しくなって笑った。

「宮地くん」
「何ですか?」

ゆうこさんはふと笑って俺の方を向いた。
俺とゆうこさんの間の時だけが止まってしまったような感覚に陥って、俺の心臓は大きく音を立てた。

「…何でもないや、早く行かなくちゃ!」
「そ、そうですよ。ゆうこさんは今日の主役なんですから」
「へへへ…」

ゆうこさんは俺に背を向けて歩き出した。
その姿に思わず手を伸ばしてしまいたくなって俺は固く拳を握った。
俺は結局自分の気持ちを口にするだけの勇気を持つことが出来なかった。
手に力を入れすぎて血が滲んでいた。

「さようなら宮地くん」

今日俺の好きな人は俺じゃない人と結婚する。
((ずっとあなたが好きでした))


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