今日私は振られてしまった。
振られたと言っても直接ではなく間接的に振られた。
今日は私とか青峰とか黄瀬くんが所属するサークルの飲み会だった。
そこで私は聞いてしまった、黄瀬くんが惚気話をしていることを。
私は大学に入学してからずっと黄瀬くんが好きで黄瀬くんのことしか見ていなかったのに全くもって気付かなかった。
自分の馬鹿さ加減に呆れた。
私は吹っ切れて、ノリノリでコールを掛けられたりして浴びる程酒を飲んだ。
私って意外と飲めるじゃん。
でもそんなのは一時の万能感に過ぎなくて、変な気持ち悪さと妙な圧迫感を感じた。
嫌な予感がした私はトイレに駆け込んだ。



「すっきりした…」

私は案の定吐いた。
それはもう吐きに吐きまくった。
鼻からも吐いた。
有り得ないぐらい気持ち悪かったけど吐いたらスッキリして頭もクリアになった。
黄瀬くんに振られたとはいえ私の心は妙に穏やかで、まるで最初からそんなものはなかったかのようにさざ波さえ立てていなかった。
もしかしたら私はこの恋が叶わないことを初めから心のどこかで分かっていたのだろう。
失恋の悲しみよりも納得した気持ちがじんわりと体を蝕んだ。
とにかく今は席に戻ろう、感傷に浸るのはまた今度にしてしまおう。
私は両頬を手で叩いてトイレを出た。

「大丈夫か?」
「おー、青峰。全然よゆーだわ」

女子トイレを出ると壁に寄り掛かった青峰がいた。
この先どんな展開が待っているか、私は知っていた。
ここにいてはいけないんだ。
私は青峰のことをまるで全く気にしていないかのように歩き出した。

「青峰あの月2のレポート終わった?」
「あ、終わってねえ」
「バカかよ、提出明後日までだよ」
「やべえよ。あ、お前の席にカクテル頼んどいたから」
「おまえどんだけ鬼畜なんだよ」

いたって普通な日常会話を繰り広げて、雰囲気が変わらないように気を付けながら私は言葉を紡いだ。
ここで流されてしまってはいけない。
私も青峰もただ雰囲気に飲まれただけの人間になってしまう。
青峰をそんな人間にさせる訳にはいかない。
私は彼の親友なのだから。
何とか席まで辿りついた私は逃げるように友人の隣に座った。
私の様子が変だと友人は思ったのだろうか、顔を覗き込んできた。

「青峰くんと何かあったの?」
「何もあるわけないじゃん。あのバカ峰だよ?」

そう言うと友達が笑ったので私も笑った。
私は渡されたアプリコットフィズを飲み乾した。
その酒言葉を私は知っている。
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