「名は体を表すと言うけど花宮に関しては全く名は体を表してないよね」
「は?」

俺と2人で教室に残って係の仕事をしていたゆうこは突然そう言った。

「真っていう字は真実って言葉にも使われるぐらいなのに花宮は真実とか言いそうにないよね」
「これでも中高の時に比べればましになったんだよ」

大学に入り、俺の猫かぶりはましになった。
というのも先輩に速攻見破られたからだ。
あの時の衝撃は今でも忘れられない。
あの妖怪じゃなくても俺のことを一発で見破る奴がいるってことにオレは驚いた。

「へぇ〜…でも花宮って基本言ってることとは違うこと考えてそう」
「そんなことねぇよ」

この女は俺のことを何だと思ってやがるんだ。
俺がこいつのこと結構気に入ってて、さり気なく絡むように仕組んだり、こいつに告白しようとした男に圧力かけてやめさせたなんてこと、こいつは一切知らないんだろうな。

「花宮って好きな子に告白する時も猫かぶったりするの?」
「しねーよ」
「意外!花宮は好きな子に猫かぶったまま近づいてそのまま懐柔しちゃうゲス野郎だと思ってたわ」
「お前ホント失礼だな」

このバカ女に呆れて思わず溜息が零れた。
同時にこのバカ女を気に入ってる自分にも溜息をついた。

「てか花宮って好きな女の子とかいるの?」
「いる」
「誰なの?教えてよ」
「言う訳ねーだろバァカ」
「え〜」

それから俺たちは作業に戻り、仕事を進めていった。
ゆうこはケチだとかつまんないだとかうだうだ言っていた。
好きな女はお前だ。
人当り良さそうでバカなところが好きだ。
誰にも平等なところが好きだ。
抜けてるところが好きだ。
意外と色々考えてるところが好きだ。
それなりに責任感があるところが好きだ。
笑っているところが好きだ。
俺のことを心配してくれるところが好きだ。
お前の全てがーーーーー

「好きだ」
「ん?」
「好きだ。お前が好きだ」
「…………私は騙されないよ」
「は?」

こんな俺でも告白する時ぐらい緊張してしまうからゆうこの顔を見れずにいたが、ゆうこの発言を聞いて俺は思わず頭を上げた。
ゆうこは顔を伏せたままで、表情が読み取れない。

「私は花宮が思ってるほど軽い女じゃない」
「言ってることがよく分かんねえ」
「私は、花宮みたいにカッコいい人に甘い言葉を掛けられたぐらいで…そ、その性交渉するような女じゃない、」
「……」
「性欲処理ならべちゅにょおんにゃにってにゃにしゅんじゃにょ」

ゆうこの頬を手で潰して上を向かせるとゆうこはタコみたいなアホ面をして俺を睨んでいた。
手を離してもゆうこは俺を睨んだままでいる。

「花宮がそんな最低な奴だとは思わなかった…正直失望してる」
「お前何か勘違いしてんだろ」
「は?」
「俺の一世一代の告白をウソだと思い込んでやがるな?」
「違うの?私花宮の真剣な言葉とか信用してないからさ」
「ゆうこってほんと酷ぇ奴だな」

俺が大げさに溜息をつくとゆうこはご、ごめん…と小さく言った。
やっと理解したのかよこのバカ女は。

「まあつまり俺はゆうこが恋愛感情でいう好きって訳だ」
「……突然すぎるし花宮は開き直ってるしで話に付いていけない…」
「これからは俺がお前に好意を抱いてることを自覚しながら生活しろよ」
「よくわかんないけどわかったよ…」

ここまで来たら俺はもう引くつもりはない。
かつて悪童と呼ばれた俺は今こんなアホみたいな女にほだされている訳だし、将来ってよく分かんねえもんだな。

「一か月後ぐらいに俺のことどう思ってるか聞くからそれまでに意見まとめとけ」
「何その読書感想文的なやつ」
「は?いいからまとめるんだよ」
「急に横暴…」

仕事が終わった俺たちは一緒に帰ることになって、コンビニでアイス買って、なんだかデートしてるみたいで俺は思わずゆうこの手を握ってしまった。
ゆうこは「尻軽!これが尻軽…!」と言って来たので日本語が絶妙に違うと注意するとゆうこは怒って、その勢いで自分のアイスを落としていた。
優しい俺が自分のアイスをあげるとゆうこはありがとうと言って俺のアイスを小さく齧った。
間接キスだなと言うとゆうこはと叫んで神速でアイスを俺に返してきた。
俺は一か月後の勝利を確信して小さく笑いながらそのアイスを食べた。
夏真っ盛りで日差しが俺たちを照らしていた。
五月蠅く鳴く蝉だけが俺達を見ていた。
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