◎一雫目


「人魚に会った!!」

突然東堂が部室に駆け込んできたかと思うと意味の分からないことを叫びだした。
とうとう頭もおかしく……いや元々だけどな。さらにおかしくなったらしい。

「本当だ!プールにいたのだ!
とても美しい姿で泳いでいたのだ!」

なんでも部室のシャワー室がいっぱいだったからプールに隣接しているシャワー室を思い出し行こうとしたらプールで音がしたらしい。んで覗くと人魚がいた、と。
あーそういうことね。
てかコイツ知らなかったんだな。

「それ噂の子だな。」
「噂?」
「お前知らねぇの?」

新開が変わって説明する。
一年前くらいからかな?夜プールに行くと人魚のように美しい生徒が泳いでるんだぜ。
けっこう有名になってたんだけど尽八知らなかったのか?

「ふむ、聞いたことあるような気もするが…。
何せオレにも劣らぬ美しさを持った女子だったなぁ。儚い美しさと言うか、本当に泡になって消えてしまいそうな感じだった。」
「「……………。」」

東堂の恍惚とした表情にオレ達は言葉が出ない。
そんな中不思議チャンが空気を読まずにヘラヘラと言う。

「それ、名前さんですよねー。」
「な!お前知っているのか!?」
「知ってますよー。オレ時々プールのシャワー室使うから。
しゃべったこともありますよー。」
「何ぃ?!」

そりゃそうだ。
チャリ部は人数が多いからシャワー室だって混む。そこで部室の近くにあるプールのシャワー室がよく使われるのだ。
東堂が知らなかっただけでオレだって話したことくらいはある。
苗字名前 二年生。
水泳部に所属しているが大会には出ず、部員が帰った後1人で好きなように泳いでいるだけの不思議チャン。
確かに、可愛いともきれいとも言える整った容姿の持ち主である。

「苗字名前…。」
「なんだ、尽八。惚れたのか?」
「な!別に、そういうわけでは!」

ワタワタの慌てて否定するがそんなもの肯定しているようなもんだろ。
自称女子の人気をほしいままにしている人気者のこんな姿をファンのヤツらに見せたらどうなるんだろうな。

「美しいオレが美しいモノに惹かれるのは当然だろう!恋愛とか浮ついたものでは断じてない!
それに1人の女子に惚れてしまってはファンが泣くだろう!」
「安心しろヨ。誰も困らねぇから。」
「お前の残念な顔ではこの悩みは分からんよ。」
「ッセェ!分かりたかねぇよバァカ!!」



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