◎第壱話


燃え盛る炎の中ただ無我夢中で走ってた。
何かから、全てから逃げたくてがむしゃらに走ってた。

「兄様、兄様……!」

嗚呼、
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
いつ、どこで歯車は狂ってしまったんだろう。


第壱話


気が付くと知らない場所にいた。
どうやらいつの間にか相当遠くまで来ていたようだ。
知らない町並みをふらふらと歩く。

「私は、これからどうすればいいの…?」

答えは返ってこない。
私は溜め息を吐き空を見上げた。
今日は新月。月は出ない。
私も人間のまま。


私は死んだ方が良いのかもしれない。
いや、私の存在価値は無くなってしまったのだ。
生きている意味はもう、無い。
手には我が愛刀、月華乱舞。
これで自分の胸を刺せば…。


その時、微かに血の臭いがした。
敵か、そう思い刀に手を掛け辺りを見回す。
が、何もいない。


気のせいかと思いまた歩き出そうとした瞬間、上から何かが飛び降りてきた。
それは真っ白な髪にだが普通の鬼とは違い、血のように赤い眼をした男だった。
そして口の周りは眼と同じ色をしていた。「鬼、なのか…?」

尋ねたつもりだが返答は無い。
代わりに男はにたりと笑った。

「血ぃ、血を寄越せ…血を寄越せぇぇぇぇぇ!!!」
「な!!…………っ!!」

襲い掛かって来た鬼を一太刀で的確に急所を突く。
近距離で刺した為返り血が顔や袴に飛び散った。
これじゃ町は歩けないな…。


「おい、お前。」

後ろから強い殺気を籠めた声が聞こえてきたかと思うとひたりと首に冷たい物が当たった。
近付いて来ていた気配には気が付いていたが目の前の敵に集中していた為散漫になっていた。
私としたことが気が動転しているとはいえ、迂闊だった…。
しかもこの殺気……………………私では敵わない。

「無駄な抵抗はするな。動けば切る。
いいな?」

私はこくりと無言で頷く。
背中には冷や汗が滝のように流れていた。

「お前は何者だ…………と聞きたいところだが、話は屯所でゆっくり聞かせてもらおうか。
付いてきてもらうぞ。」

私に拒否権は無い。
私はそのまま手を縛られ屯所へと連れていかれたのだった。



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