ミーンミーンと嫌でも部屋の中に入ってくる蝉の声に負けず、バタバタと団扇で風を送る音が部屋中に響き渡る。暑い。暑すぎる。




「だから暑いって!」




思わず1人叫んでから起き上がってエアコンのリモコンを連打する。



「………」




久々の休みは思いっ切り休んでやるぜ!と無駄に気合いを入れた矢先のクーラーの故障。いつもはスタジオという涼しい環境で仕事をしているせいか昼間がこんなにも暑いとは思わなかった。リモコンを握りしめたままぐったりとソファーに倒れ込む。




「あーつーいー」




また大きなで叫べば余計に体が暑くなる。俺アホか。やっぱり気持ちを切り替えるために何かをしよう。いっそのこと思い切り汗をかこうか?それとも近所のスーパーに我慢して行ってみる?それからそれからと色々な案を出しているとピンポーンとチャイムが鳴った。こんな暑い日誰だろうか。「はぁーい…」渇いた喉から声を絞り出して玄関のドアを開ける。




「どちら様です…かっ!」




ドアを開けたと同時に冷たい何かが頬に当たり俺は反射的に後ろにのけぞった。




「よーオノD!」

「っ!」




それと同時にバッチリと目が合ったのは紛れもない。なまえだ。




「ど、どうしたのなまえっ?」

「どうしたって遊びに来たんだよ」

「マジでか!よく分からないけど上がってよ!」

「はーい!おじゃましまーす」




にっこり笑ったなまえに俺も笑い返して、暇人な俺には本当に有難い来客だなぁと思わず仏様でも見るような目になる。しっかし暑いねー、と豪快に笑う#name#にハハハっと乾いた声を出しながら麦茶を目の前に置いた。ムシムシとした家になまえと2人きり。なんとも微妙なシチュエーションだ。




「本当にクーラー壊れてんだねー」

「まぁね、相当参ってますよ」

「あっはは、そうだと思ってさー」




そう言ってにひひっと笑ったなまえは持っいたビニール袋をあさりジャジャーンという効果音と共にアイスを取り出した。なるほどさっきの冷たさはアイスだったのか、と冷静に分析しつつわーいと声が漏れる。





「小野くんに差し入れを持ってきました!」

「うわーなまえ、本当に仏様や!」

「ぬははは、くるしゅうないぞ」




そう言って笑うなまえは、さぁ選びたまえよ、と俺の前にアイスを突き出す。




「じゃあ俺イチゴにする!」
「じゃあ私はレモンで」






カップアイス特有の木べら小さなのスプーンを使って2人でシャリシャリと冷たいアイスをつつく。どこか懐かしいかき氷のアイスは時々頭がキーンと痛くなる。




「うまー」

「本当にねー」

「こういうかき氷のアイスって懐かしいね」

「でしょー!だからついね」




へへへと子どもっぽく笑うとなまえはおいしそうにアイスを口に運ぶ。あらら、何だか可愛いね。ついそんなことを考えながらぼんやりと見ていればそれに気付いたなまえは不思議そうに俺を見た。





「ん?小野くんどうかした?」

「え、あ、いやなんでも1」




本当にー?と首を傾げるなまえはいまいち納得いかないらしく俺をジッと見る。もちろん俺は気付かない振り。アイスを黙々と食べる。




「小野くん」

「んっ、な、何っ?」




誤魔化すようにもくもくと食べたせいでさっきよりもキンキンする頭でなまえを見ればアイスが乗ったスプーンを俺に差し出している。




「な、何…?」「え、食べたかったんじゃないの?」

「…!」

「ほら、小野くんあーん」

「あっ…!!」




思わず驚いて開けてしまった口の中にふわりと広がったレモン味。おいしい?、そうたずねてくるなまえを見て俺は思わず下を向いた。








キーン
(あれ小野くんどうしたの?)
(いや、頭がキーンとしちゃって)



顔が紅いのがバレないように

1997