『僕あんまり怒らないですね〜』

『確かに小野くんはね、基本へラへラしてるよね』

『だって怒る事ないですもん!毎日楽しいですもん!』

『喜怒哀楽でいう、喜楽だけってこと?』

『そうですね、なんちゃら亭喜楽ですよ』




楽しそうに会話するラジオの中の大輔。確かに大輔って全然怒らない。というよりも怒ったとこ見た事ないし、怒られたことも無い。




「喜楽、ねー…」




付き合って1年以上だけどまだ大輔の知らない顔があるのかと少しだけ複雑な気持ちになる。




「怒らせて…みる?」




少し最低かなと思いながらもその日から地味に始まった大輔の喜怒哀楽調査。

まず手始めに気持ち良さそうに眠る大輔にちょっかいを出して見れば「構って欲しいの?」と私がベットに引きずりこまれる。大輔のブラックサンダーを勝手に食べても「まだあるから食べる?」と大量のブラックサンダーを渡される。

それから何日もそんなことを繰り返し、喜楽しかない大輔にだんだん疲れてきた私。大輔の器の大きさに感動しつつも、もしかしたら1人で溜め込んでいるのではと今度は心配になってきた。




「大輔なんで怒らないの?」

「え?」

「大輔はどうして怒らないんですかー?」




思い切って聞いてみると「なまえに怒る理由ないじゃん」と不思議そうな顔をして私を見る。この人はどれだけいい人なんだろう。




「最近の私の行動どうだった?」

「え、別にいつも通りだったけど…」

「うざいって思ったでしょ?」




私の発言になんで?!とかなり驚いた大輔に驚きたいのはこっちだよと内心思う。




「寝てる時ちょっかい出したり、大輔の物勝手に食べたり色々してたじゃん」




大輔は、んーと少し考えてあったかもねぇとのんびりとした口調で言った。




「なんで怒らないの?」

「怒るほどのことじゃないから」




ニコッと笑う大輔に私の罪悪感は増す一方で喜怒哀楽の怒と哀がぐちゃぐちゃになって私に押し寄せてきた。




「あれ全部わざとなの。あれで…大輔を怒らせようとしたかったの」

「えぇーそうなのー?」

「ラジオで怒らないって言ってたから確かに怒ってる姿なんて見ない方が良いけどさ、私の知らない姿なんだと思うと、なんか…。それにもしかしたら色々抱え込んでるのかもとか思うじゃん…」




自分の声がおかしなぐらい震えて喉が熱くなる。何やってんだ自分。ただの悪ふざけがこんなに辛くなるなんて。ぼやけてきた視界にと恥ずかしそうに笑った大輔が映り、「ラジオ聞いててくれたんだ」私の頭をよしよしとなでる。




「俺はねーなまえが変わりに怒ったり泣いたりしてくれるから喜と楽だけになっちゃった」




へにゃりと笑った大輔は、あぁやっぱりへらへらしてる。




「俺に哀しいことがあったらなまえが泣いてくれて、俺のイラっとしたことに怒ってくれる。それがまず喜び」

「私そんなことしてないよ」

「無意識にしてるよ?なまえの喜怒哀楽見てたらいっぱいになっちゃって」




ずっとニコニコしてる大輔に思わず私も泣きながら笑ってしまって




「それで、なまえと一緒にいることが楽しすぎる」



ね、喜楽でしょ?と満足気な顔をする大輔に私の気持ちは満たされる。私だって大輔と過ごせることに喜びと楽しさをとても感じてるよ。だけど今は恥ずかしいから。




「その笑顔、なんちゃら亭喜楽って感じ」







喜怒哀楽
(君のおかげで怒と哀を忘れちゃった)
1997