「お、小野くん!これを見て!」 「何っ!もしかしてエロ本っ?」 「ううん、違う。もっとまずいもの…」 「もっとまずい、もの…?」 「こ、これ…」 「て、手錠ぅぅうぅ!」 本日、小野くんとやって来た神谷浩史氏宅。通称事業仕分けという名の神谷さんのお古の洋服を貰うためにやって来ました。まぁ、私はただの付き添いなんだけどね(だって楽しそうだし)。しかしそんな感じで来た神谷家で今現在、とんでもねー物を見つけてしまった。そう手錠。つまり警察官が持ってるがちゃってやるやつだ。うん、知ってるか。 「どうしよう小野くん」 「どうしようって元に戻しなさい」 「だって手錠だよ?」 「いや、だからしまいなさいって」 「でも小野くん手錠っ!」 「お願い!しまってぇ!」 ものすごい顔でお願いする小野くんに私のS心は言わずもがなくすぐられる訳であって…。今この家の主人である神谷さんは小さな仕事があるとかなんとかで不在。私達はそんな中でお留守番を兼ねて現在事業仕分け中なのである。しかし手錠なんて面白いものがあるならやることは1つだ。 「みょうじなまえ、犯人確保っ!」 「な、何っ?!」 「大人しくするんだバカちんが!」 「バカちんてひどいっ!」 「室井さん、無事に星を捕まえましたドーゾ」 「ちょ、一人芝居やめてー!」 とまぁそんな感じで私、第二の青島刑事ことみょうじデカは犯人小野大輔を確保☆したわけだがこのもう一方の余った輪っかはいったいどうするんだろう?さすがに両手に手錠をかけるのは面白くない。ベッドの柵にでもと思ったところである警部を思い出した。 ガチャリ 「え、何してんのなまえ?」 「銭形警部ってさルパンとよくこうしてるよね?」 「うん、まぁね」 「だからしてみた」 「なるほどね!」 余った輪っかを自分の腕にかけそう言えば納得したように小野くんがニコニコ笑って見せた。ここまで来たら私達はもう止められない。 「ルパーン今日こそ捕まえたぞ!」 「んなはははーとっつぁーん」 「うわ、小野くん似てなっ!」 「そういうなまえも似てないからね!」 「だって私は女の子だもーん」 「じゃあほら、不二子ちゃんだよ!」 「やだルパンっ」 不二子ちゃーん!と小野くんが叫ぶ。なんだこれ楽しいなこれ。じゃあ俺次元やる、じゃあ私斬鉄剣やる、いやいや斬鉄剣喋らないから、とか色々。何十分かやりたいだけやって私達はさてと一息ついた。 「小野くん、外して」 「え、なまえが外してよ」 「だってこれ頑張っても外せないんだもん」 「当たり前じゃん!だってこういうのは普通鍵で…っ」 「「鍵っ?」」 ギャァァァアァァ!と私達は慌てて鍵を探し出した。鍵とかマジかい!知らなかったよー!テンパっているのと片手が拘束されているとで非常に探しずらい。ああもうムカつくっ!近いんだよ小野くん!またも何十分か経てば「おぉ!」と小野くんが声を出した。 「あ、あったー!」 「おおお!ナイスだ小野くん!」 「ちょっと待ってねー」 右手が拘束されている小野くんが左手に小さな鍵を持った。ナイス小野くん!今の小野くんはとてつもなくハンサムに見えるぞ!さぁ来い、早く外せ。やっと私は自由になれる。とっつぁんはいつも大変だったんだねと呑気に考えていれば。「あっ…」という小野くんの声とともにチャリンと鍵が落ちた。 ギャァァァアァァ!私達はまたも叫ぶ。 しかも更に困ったことにその鍵はタンスの後ろに吸い込まれるように消えていった。ちょ、マジで洒落にならんんん! 「小野ぉぉぉ!」 「いやぁぁごめんなさいぃぃ!」 「何で貴様は大事な時にぃ!」 「だって左手だったからぁ俺右利きだからぁー!」 「と、とりあえずタンスっ!」 「え、ダンス?」 「違うわタンスやぁ!」 誰がこんな緊急時にダンスに誘うか!と突っ込みたい気持ちを抑え、わたわたと慌ててタンスを掴んむ。しかしやっぱり拘束された手ではどうにも上手くいかない。 「痛い痛い!小野くんふざけんなアホ」 「アホは余計だからっていたたたた!」 「あぁなんか手がぁ!」 「とりあえず持ち上げるよなまえ、行くよせーの!」 「うぅっ!何これ重い重い!ギブギブ小野くんっ!」 「うわ、大丈夫っ?」 神谷さんのタンス重いっ!小野くんが心配そうに声をかけてくれた。ありがとうジェントルマンよ。しかし本当に無理だ。こんな重たい物を私が持ち上げられるわけがない。私達は思わず床に座り込んだ。マジで困ったしなんかお腹空いた。 「お腹空いたよ小野くん」 「ブラックサンダーならあるよ」 「さすがチョコおじさん」 「おじさん余計な」 「私もキャラメル持ってたわ」 鞄に手を伸ばす小野くんに必然的に私も付き添う形になる。そして私が鞄を取る時は小野くんが付き添ってくる。なんか面倒くさいなこれ。更に面倒くさいのはブラックサンダーを開封することだ。やっぱり両手を使わなければ上手くはいかない。 「ちょ、小野くんもっと力んで」 「えぇーなんで?」 「小野くんの腕が重くて開けにくいよ」 「あぁごめん、ってんぶ!」 「あ、ごめんちゃい」 「ちゃいじゃないぃ!」 縦に裂くところを横に引っ張って開けた私の腕が小野くんの顔にクリーンヒット。こりゃ可哀想に。そして小野くんはと言えば私が上げたキャラメルに悪戦苦闘中。少し溶けていたらしく紙がくっ付いて片手では取れないようだ。あぁ!とか言って何度もキャラメルを落とす小野くんは手元緩いんじゃないかと不安になる。 「私が取ってあげるよ」 「ありがとう」 「じゃぁほらあーん」 「え、いいってそんな!」 「いやいいからあーん」 嫌がる小野くんの口に無理やりキャラメルを放り投げる。何だか照れくさそうな小野くんはありがとうとお礼を言って少し下を向いた。しかしどうしよう、このまま小野くんと離れられなかったら。なにせ手元緩いしついでに口元も緩いしね、色んな意味で。 「小野くんとずっと一緒なんてやだよー」 「何それひどい!」 「せめて頼れる安元さんと手錠で繋がりたかったー」 「俺頼れるよ!いや、安元さんには負けるけど」 「ほらやっぱりー!」 本当にこのまま繋がってたら仕事はおろか日常生活に支障が出る。いや、出まくる。まず家に帰れない、トイレ入れない、いや風呂入れないっ!私の人生終わったんじゃね?てか嫁にいけないよね私。 「え、マジで困る。小野くんと一生を共にするとか…え、マジで困る」 「じゃぁこうなったら一生を共にしようか、結婚を前提に手錠で繋がれようか」 「いやいやいや!その口説き文句全然格好良くないからね!どや顔やめようね!」 「もう小野なまえになれって、この手錠は結婚指輪の変わりね」 「嫌だ!指輪の変わりに手錠なんて!」 「同じ丸くてはめる物じゃん」 「アホか!はめる場所が違うし四六時中一緒の時点で違うわ!」 「俺が養ってやるぜなまえ」 「いーやーだー!」 もう大パニックである。小野くんと手錠で繋がったままギャアギャアと言い争う。にしても何でこんなに小野くんは嬉しそうなの?アホなの?アホなの小野くんは?なんだかこの1時間程度でものすごく疲れた。やっぱりこいつと一生を共にするなんて無理だ。 「なんか疲れたし眠い…」 「そう?じゃぁ少し寝れば?」 「いや、この状況で寝るとか無理でしょ」 「肩貸すけど?」 「え、あ、うん、いや…」 「別に俺は平気だよ?」 「う、うん…」 何でこんな時にジェントルマン小野になるんだろうか。不覚にも一瞬ドキッとする自分がいる。てかこの状況でときめくとかアホか私は。 「私が寝たら小野くん寂しくなるだろうから起きてる」 「あ、マジで。実は少し寂しいと思った」 「私、優しいからね」 「でもまぁ無理しないで」 「うん、」 なんかもうどうでも良いかも、なんて。たまにはこういうのも悪くはないかも、なんて。そんな気持ちになり始めれる私はやっぱりバカなのかアホなのか。 それから何十分か経ってしばらく2人でぼんやりとしていればガチャリと鍵の開く音と共にとてつもなく安心出来る「ただいま」という声が聞こえた。 「「か、神谷さんだ!」」 「いやーごめんね2人と、も…」 「「神谷さーん!」」 神谷さんが唖然とした顔で私達を見た。そんなことお構いなしに私達は神谷さんに抱き付いた。会いたかったよ神谷さーん!さすがナイスタイミング神谷さん。神様に見えます神様谷さん。いや、神様谷様だ(言いにくい) 「何やってんの君ら」 「私達も分からないよ神谷さーん」 「ごめんね神谷さーん」 「とりあえず外しなよ…」 「それが鍵がっ!」 と鍵がタンスの後ろに落ちたことやルパンごっこしてたことなど今までのことを手錠に繋がったまま事細かに話せば神谷さんは呆れた顔をしてため息を吐いた。 「これ子どものおもちゃだからほらここ」 「え、どこ?」 「この小さい突起を押せばほら」 ガチャリ その音と共に今まで私達の間にあった手錠は意図も簡単に外れ床へと落っこちた。…なんかさ、なんて言うのこの気持ち。上手く表せないやっ☆だけど1つ言えるのは。 「これで小野くんと一生を共にしなくてすんだー!!」 「ちょ、喜びすぎぃぃ!」 「一生って…こんな物なんとかすれば外れるだろ」 「いやもうこのまま死ぬまで繋がれ続けるかと思いました!」 「何で気付かないのかなー…」 「何ででしょう神谷さん」 「つか小野くん凹み過ぎだから」 「うぅ…チクショウ!こうなれば神谷さんと繋がってやる!」 「うわ来るな気持ち悪い!」 「ちょっと小野くん!神谷さん確保するのは私が先だってば!」 「ヒーロースィー!」 「ちょ、マジお前らもう帰れっ!」 君を確保…? (もう少し繋がってても良いかも) (なんて思ったのは内緒) (てかこれ神谷さんのしぶっ…) (聞いちゃダメだなまえ) (勘違いすんな甥っ子の忘れ物だ) ((なんだ良かったー)) (おい) 20110316 |