「あんげんこれいるー?」 「んー…それはいらないかな」 「はいよー了解」 黙々と片付けるあんげんにそう返して、私は持っていた食器をいらないボックスに入れた。本日はあんげん宅の引っ越しのお手伝いに杉と悠一の3人で来たわけだが、昼ご飯を買いに行ったその2人がかれこれ1時間は帰って来ない。あいつら完全にサボってやがるなー、と内心呆れながら次の食器に手を伸ばして新聞紙でくるくると包む。だいぶ片付いてきたあんげんの家は現在ダンボールだらけでその間を楽しそうに走るギンコが何だか可愛い。 「しかしあいつら遅いな」 「昼ご飯って何買ってくんだろ?え、もしかして狩ってくんのかな?」 「狩ってくるってイノシシとか?」 「そうそう、お昼はイノシシ鍋」 「うわー精力付きそうだな」 はははっと笑ったあんげんに私も笑い返して、よっこいしょーと食器棚に残るコップを取り出した。うんうん、本当に片付いてきた。 「綺麗に片付いてるから荷造りが楽だねー」 「そんなこともないよ」 「そうー?」 「ほらゲームとかゲームとかゲームとかさ」 「あぁなるほどね」 ケースを捨てるか捨てないか悩んでいるあんげんがそう言って小さく息を吐くと床に手を付いて足を投げ出した。私達は途中から参加したわけだけど朝からずっと片付いけいるあんげんはどうやら少しお疲れのようで、しかもお昼ご飯もまだ食べてないんだから集中力も切れるはずだ。 「杉と悠一に電話してみる?」 「んーまぁいいよ、あいつらも疲れてるだろうし」 「あんげん優しいなー」 「いやいや手伝ってもらってるし」 「まぁ、言い出したの私達だけどね」 「てか、なまえもだよね、大丈夫?疲れてない?」 「あー私は大丈夫だよ」 気にしないでとそう言って笑えばありがとうとお礼を言うあんげんが疲れた様子でヘラリと笑う。 「そうだ、お茶でも飲む?」 「あぁ、そうだね」 「私用意するよー」 立ち上がろうとするあんげんを止めて、ちょっと失礼しまーす、と冷蔵庫から麦茶を取り出して適当なコップを2つ用意する。 「氷入れる?」 「マジで、入れる」 「じゃあ冷凍庫も失礼して」 「あー、チョコ食べる?」 「おっ!食べたーい」 「じゃあそこの棚にねー」 「あっ!私取る取るー」 また立ち上がろうとするあんげんを止めて指をさされた棚のドアを開けた。どれだどれだと1つずつ箱を見れば小さな箱の中に茶色い包みが見えて私は手を伸ばした。うん、なかなか高いな。一番上に見えるその箱は背伸びをしても指先が微かに触れるだけで後少しというところで掴めない。もう1回チャレンジ!とグッーと更に背伸びをすれば後ろからすっと伸びてきた手が難なくその箱を掴んだ。 「うわ、あんげんでかっ!」 「いや、まぁ、ごめん…」 「え、何?何がごめん?」 「あ、いや」 「え、何?何でちょっと顔反らすのっ?」 なぜかさっきとはどこか様子のおかしいあんげんにおろおろと尋ねれば一瞬だけこちらを見たあんげんがもにょもにょっと小さく口を開いた。 「ごめん、パンツが」 「パンツっ?」 「パンツ、見えてたから」 「っ!」 パ、パンツっ!心の中でそうリピートすれば一気に恥ずかしさが押し寄せる。今更ズボンを手で押さえたりしてあんげんを見れば申し訳なさそうに視線を下に向けている。 「え、私ったらパンツ丸出しでなんてこった!」 「あ、いや、別に丸出しとかそう言うんじゃなくて」 「なんか…すんません」 「いや、俺のがすんません」 やっとこさあんげんと目を合わせてそう謝れば、ふつふつと笑いがこみ上げてきて、どちらからとも言うわけでもなくプッと吹き出して私達はケラケラと笑い合った。 「いい歳こいてパンツパンツって」 「よく考えたらバカみたいだな」 「本当だよー、あーでも杉と悠一にも見られてたかなーやばいなー」 「あぁ、だったら俺のTシャツ着る?」 「えーサイズが無理じゃない?」 「この前間違えて小さいサイズ買っちゃって着てないやつあるんだ」 「え、でも良いの?」 「まぁ、なまえが良いんなら」 そう頷いたあんげんがせっかくしまったダンボールからTシャツを取り出して、これ、と私に差し出した。 「いや、何だか本当にすんませんね」 「まぁあいつらに見られるのは避けた方がいいしね」 「あはは、あの2人すごい言われよう」 「着替えは脱衣場でどうぞ」 「うん、じゃあお言葉に甘えて」 「ごゆっくり」 そう言ってわざわざドアまで開けてくれたあんげんがクスクスっと笑ってドアを閉めた。真新しいTシャツに袖を通せばやっぱりかなり大きいけど、これはまぁあんげんの優しさと比例するということで、午後の片付けも頑張ろうと脱いだTシャツをぴんと伸ばした 8月2日 (やっぱサイズ大きかったよあんげん!) (っ!) (えっ?何でまた顔反らすのっ?) (あ、いや、なんかごめん) (えっ?えっ?) パンツがチラリズムも良いけどやっぱりメンズシャツをダボっと着ちゃう女の子の方が私は押し倒したい← 20120804 |