たまに部屋の片付けなんてすると昔のがらくただったり思い出だったりが出て来て困ったもんだ。これまだいるー?なんていう智和の声に慌てて返事をしてクローゼットの奥から出てきた小さな缶を私は膝の上に置いた。さてはて何が入っているのやら。よし、と少し気合いを入れて蓋を掴めば、ねーこれはいる?と智和がタイミングよく顔を出した。 「あれ、何してるの?」 「なんか奥から出てきた」 「開けるの?」 「うん、開ける」 私の隣にしゃがみ込んだ智和が古そうな缶だねと呟く。確かに少し錆びたその缶は私にも何が入っているのか分からない。変な手紙とか入ってたらどうしようという40%の不安とへそくりとかだったらいいなぁという60%の期待。開けるね、なんて一度智和に確認して少しだけきつい缶の蓋をガバッと外した。 「あっ、」 「ん?」 「懐かしい!この手紙!」 「なんか手帳もあるね」 「あーこのミサンガー!」 不思議そうな顔をする智和を横に私は思わず懐かしさにはしゃいでしまう。思い出したこの缶は高校の卒業式のあと友達と作った宝箱だ。なまえへと書かれた何枚もの手紙と私の高校時代の思い出品を入れた箱。高校生の時のことなのにもう忘れてるとは思わなかった。 「これ宝箱ってやつ?」 「うん、高校卒業の時友達と作った」 「へぇー青春してるねー」 「別にそんなことないよー」 「これはお守りかな?」 「え、どれー?」 どこかじじくさい智和に笑いながら智和が手に取った小さな巾着に視線を向ければ持ち上げた拍子にコロリと中から何かが落ちた。 「あ、ごめん」 「ううん、大丈夫だよ」 「えっとこれはー…ボタンかな?」 「ボタン?」 智和の手のひらに銀色のボタンがキラリと光った。 「こ、これ…!」 「もしかして、卒業式によくあるあれ?」 「あ、あれだよ!」 「あぁ、見なきゃ良かった…」 「えー何で!あーでも懐かしい」 「何だよこれ誰の第二ボタンだよ」 「これ第二じゃなくて第一なの」 「第一?」 「そう、第一」 少し苦笑いをすれば智和が私を見てどこかほっとした表情を見せて、思い出聞かせてよ、とにこりと笑う。 「これは高2の時に貰ったの」 「高2?」 「うん、先輩から貰った」 「そっか先輩か」 「智和は後輩から下さいって言われた?」 「それ聞く?」 「えへ、ごめん」 そう言って謝れば智和は俺なんかよーと昔を思い出してちょびっと凹んでいるようだ。私としては智和のそういうところ好きだけどね。 「私が入ってた部のエースで部長だった人の」 「へぇーエリートか」 「エリートか分かんないけど優しくて面倒見の良い先輩だったよ」 「良いなーそういうの」 「勉強も部活も仕事も出来るしですっごい憧れで」 「才色兼備ってやつだな」 「卒業式終わってすぐボタンもらいに行ったんだよ」 智和から手渡されたボタンを指でコロコロ転がせば何だか昔の甘酸っぱさが思い出されて自然と笑ってしまう。 「で、ボタン下さいーって言ったら第一でいいかなって」 「うん」 「第二はもう先約がいるんだって言われちゃってさー」 「もしかして彼女、とか?」 「そう彼女!やっぱり第二は彼女の物だからね」 「なるほどなー」 「分かってたけどちょっと切なくてね」 先輩が彼女と帰ってるところもデートしてるところも偶然見たことがあったしただの憧れとして見てたはずだった。だけど。先輩から直接言われたその言葉は案外私の胸に突き刺さって心臓をチクチクと傷めつけた。 「憧れかと思ってたらやっぱ好きだったんだよね」 「ちょっと切ないな」 「うん、切なくてなんか泣けたもん」 「泣いたんだ」 「帰り道自転車乗りながらね」 「何そのドラマチックな絵づらっ!」 なんかそういうのアニメでも観た!とやべぇやべぇと騒いでいる智和が可笑しくて笑い過ぎて涙が出てくる。高校生の時に智和が居たら慰めてくれそうだなーなんてちょっと考えながら涙を軽く拭って短く息を吐いた。 「高校生の私も今ぐらい笑い飛ばせたら楽だったろうね」 「まぁそうして大人になるんだろ」 「泣いちゃうんだから可愛いね」 「今だって泣いてんじゃん」 「これは笑いすぎたの」 そう言って智和を見れば追い討ちをかけるように白目を向いて変な顔をするもんだから私はもう可笑しさも涙も止まりゃしない。 「しかし卒業かー…」 「私も智和の思い出聞きたいな」 「それよりさ、俺等もそろそろ卒業しようか」 「ん?何から?ゲームとか?」 「んーそれは無理そうだけど今の関係というかこの感じ」 「この感じ…?」 「何ていうかさ、」 「うん」 「カップル卒業して結婚しようか?」 「えっ?」 「なまえさん」 「は、はいっ…!」 「俺と、結婚してくれませんか?」 Congratulations (それは素敵な卒業だね) (喜んで卒業します) (大切にさせて頂きます) 201203010 |