今日空いてる?と連絡が着てから1時間。うちに来てよと言われた通りまだまだ暑い真昼の太陽を浴びながらせかせかと自転車をこいできたが部屋に上げられた途端に視界に入った現状に俺は半目になった。 「で、」 「で?」 「これは何?」 「これはねぇ宿題といいます」 「誰の?」 「弟の」 「で?」 「一緒に手伝って」 「………」 夏休み明け9月最初の土日。呼ばれた時に微妙にそんな気はしていたけどまさか弟の宿題とは思わなかった俺は半目から白目になりそうになる。だってなまえの弟は確か、 「小3だよね?」 「うん、小3だね」 「1人で出来るでしょ」 「それがさー出来ないの」 まぁとりあえず座りなさいな、とローテブルを囲むように置かれた座布団の最後の空席をなまえはバフバフと叩いた。 「この電気回路が出来ないんだ」 「うわぁ俺もそういうの苦手だ」 「えーゲームしてんだから出来るでしょ」「いや出来ないだろ」 「だってケーブル挿すじゃん」 「3色だけね」 「なら大丈夫、こっちは2色だから」 うっしゃー!とこれでこの宿題は完成したかのような声を出したなまえに文句を言うのも面倒になり俺はため息を吐いた。俺等の会話をよそに隣で黙々とドリルを解くなまえの弟はよほど困っているのだろうか。ジッと俺を見たかと思うと、頼むよー智和っ!といつもの生意気さはどこえやらだ。 「あ、良かったらお茶ね、飲みかけだけど」 「はいはい」 「あ、あとこれスパナ」 「スパナっ?」 「ダメだったら使って」 「ダメだったらっ?」 まさかさっきまでこの宿題を消そうとしてたのではなかろうなと疑りの目を向ければ、頑張ってやってね、とどうやら写生の宿題をしているなまえが筆を片手にそう言った。 「それはどこの写生なの?」 「あーこれはねー沖縄」 「へぇー言ったの?」 「ううん、行ってない」 「え…」 「杉も見たことあるよ」 ほれ、と見せられたのは社会科日本地図の1ページだ。なるほどこりゃ見たことあると思いつつもこの人やるなぁとそのずる賢さに思わず感心してしまう。しかし本気で写生(?)をしているなまえの絵は小学3年生が描いた物とは到底思えない。 「大丈夫か、それ」 「だいじょーぶ!宿題なんてみんな大人の力を借りて成り立っているさ」 「あ、そう」 どこか楽しそうななまえに苦笑いをこぼして、訳の分からない電気回路を繋ぎながら床に散らばるプリントに目をやった。算数のプリント、読書感想文、そんな宿題達の中から見つけた宿題一覧チェック表とやらを見て俺は唖然とした。 「おいこれどういうことだ」 「何が?」 「チェックが1つも付いてないぞ」 「当たり前じゃん1つも出来てないんだから」 「いくらなんでもない、これはないぞ弟よ」 と俺がそんなことを言えば夏が楽しかったんだよ!と半べその弟が俺を少し睨んで隣のなまえが面白そうにケラケラ笑う。自分が小学生の時のことはあまり覚えていないがなんだか羨ましい。 「ダメな弟だよねー誰に似たんだか」 「3分の1ぐらいはなまえの影響もあるだろうな」 「あはは、そりゃ否めなーい」 「俺姉ちゃんよりかはしっかりしてるもん」 「お前この有様で何言ってんだクソガキ」 「クソガキじゃないもん!智和なんか言えよー!」 「お前、姉ちゃんが居るって羨ましいことだぞー」 まぁ、姉という存在が居ない俺にとってはそういう言葉しか出てこないわけだが、とうの弟は、そういうことじゃないー!とブーブーと文句を言う。 「俺智和みたいな兄ちゃんが欲しかった」 「ほほう」 「智和に姉ちゃんやるから智和が俺の兄ちゃんになってよ」 『はっ?』 思わずハモった俺等の声に弟は真剣な眼差しでこちらを見ている。なんとびっくり。俺は弟からたいそうなお許しを得たようだ。 「ちょ、何だその目は杉田」 「弟が俺になまえをくれるって」 「いや、それはないからな」 「弟が俺をお義兄さんだって」 「あれなんか字が違う気がする」 「義弟になるな弟よ」 「ぎていって何?」 「それはな弟よ、」 「ってそんなん良いから!」 そんな声とともに頭に降ってきた地図帳がバシッと音を立てる。痛いなんて言葉より照れたなまえの顔がどうにも可愛くて俺はついついニヤついてしまう。 「何叩かれてニヤニヤしてんの杉っ!」 「だってなまえがさー」 「何っ?Mなの?杉はMなんですかっ?」 「照れてて可愛いから」 「うっさいわボケ!」 「姉ちゃんエムって何ー?」 「お前にはまだ早いっ!」 「えー!」 智和ーと今度は俺に聞いてくる弟を上手く丸め込んでなまえをもう一度見る。実際どうなの?なんて意地悪く聞いてみればチラリと一瞬俺を見たなまえが、悪くはない、と小さく呟いた。 兄ちゃんと姉ちゃん (ちょっとした約束をしたみたい) (兄ちゃんて呼んでいいぞ弟) (えーマジでー!) (いいから宿題やれ!) 20121008 |