「やっぱり日常的に愛情表現するのが男女が上手くいくための1番の方法なんだって」

「え?」




とその言葉を聞いてポトリと掴んだはずのから揚げをお箸から落としてしまった。マジでか。




「テレビでやってたんだけどね、好きって言われることでー」




とテレビの実験データを私の友達は淡々と話す。落としたから揚げをもう一度掴んで口に運ぶ。平然を装っているけど友達の話を聞いていればとんだ衝撃事実の連発だ。




「女は愛の言葉に弱いんだと」

「それ分かるかもー!」




周りの友達が声を揃えて反応したので私も慌てて頷いた。もちろん好きとかね、言われたら嬉しいですよ。でもね愛情表現が苦手な人っているじゃない。居るんですよね、私の身近に。
















「ただいまー」

「おかえり」




私が家に帰えるとソファーに座って台本チェックをする浩史がそう応えた。荷物を下ろして浩史の正面に座れば、今日も暑いな、と声をかけてページを捲った。なんだそりゃ。




「今の台詞?」

「ハァ?んなわけねーだろ」

「ですよね」




ハハハっと笑って内心ため息。ちょっと冗談言ってみたけど私の頭の中にはさっきの会話が頭をぐるぐるしている。そんなことより『好き』と言ってみて下さいよ。私にその2文字をガツンと言って下さいよ。




「浩史なんの台本?」

「ん、まぁ新しいやつ」

「どんな?」

「なんか…あれだ」




あれってどれ?私は浩史の隣に腰を下ろして台本を覗きこめばそこら辺に散らばる愛の言葉に、なるほどと私は納得した。




「恋愛物でございますね」

「あんま見んなよ」

「分かってますよー」

「なら良いけど…」




恋愛物、ね。浩史の隣に座りながら見るなと言われた台本をぼんやりと見つめる。私には言わないあんな台詞やこんな台詞を言うんですね、私以外に。別に意識しているわけじゃないが台本のページには探さなくてもいいくらい『好き』の2文字が書かれている。しかしこんなに言うんですか?




「浩史この台詞」

「あ?そりゃ相手役だぞ」

「読んでみて?」

「何でだよっ」

「何でってそりゃ…」




好きっていう台詞が書かれてるからだよ、なんてことは言えるわけもない。次の言葉が見つからなくて私は思わず黙り込む。さてなんて言い訳するか。




「んで、何?」

「あ、浩史この台詞は?」

「え、どれ?」

「これ、ここ読んでみて」




こうなりゃやけじゃい!と浩史の言葉など無視をしてまた『好き』と書かれた行を指差した。もうね、意地でも好きと言わせてやりますよ。




「………」

「浩史?」

「…読んだぞ」

「え、読んでないじゃん」

「読んだって。黙読で」

「誰が黙読しろゆうた!」

「音読しろとも言ってないぞ」




ちくしょうやられた。そりゃまぁ声に出して読んでなんて確かに何も言ってないけど言わなくても普通黙読なんてしないでしょ。お前声優だろ!と心の中で突っ込みながら浩史のガードの高さに呆れながらチラリと横顔を見ればばっちり目があった。あらまずい…?




「お前、わざとか…」

「さぁね」

「なまえ」

「なぁに?」

「わざとか?」




照れたように私を見た浩史にバレてたかと内心ため息を吐いて、だったらどうする?、と尋ねてみれば恥ずかしそうに尖らせた口と少し困った表情。ちょっと意地悪し過ぎたかな。何も言わない浩史に私は真っ直ぐと向き直って顔を覗き込んだ。





「浩史、」

「なんだよ…」

「好き」

「はっ?」

「浩史は私のことどう思う?」




遠回しにしたって仕方ない。なにせガードが高いから。





「な、何だよいきなり」

「私は浩史が大好きなのよ」

「そ、そんなこと別に」

「浩史は?」

「そんな言わなくたって俺も、」





俺も?、その先を言わない浩史をジッと見つめていれば台本の1行を指差してチラリと私を見た。




「俺もこれだから」

「、!」





あぁまったく。また言ってもらえなかった。ちょっぴり残念に思いながらも今日のところはこのバカみたいに甘ったるい台詞と浩史の真っ赤な顔に免じて許してやることにしよう。





世界中の誰よりも君が好きだ
(次は直接言ってもらうから)

(お、お前もう寝ろよ…!)
(いや、まだ9時だから)

20110828
1997