五─A


 「……しかし、仕事とはいえ、野郎の服洗うってのも気分がいいものじゃねーだろ」
「いやいや、そんなことないですよ!……血汚れ多いので落とすのが大変ですけど」

目の前で鮭をつつく土方さんの茶碗には、ほかほかご飯とマヨネーズがたっぷり盛られている。その辺の偏食ぶりは相変わらずのようだ。
 屯所の食堂内では隊士達が各々席に座り朝食を取っていた。今日のメニューは塩鮭に味噌汁に菜の花の煮浸しにたくあん。これぞ日本の朝ごはんですなあ。塩鮭の塩味と白飯の組み合わせに、日本人としての喜びを感じる。


「一番服を汚してんの土方さんでしょ?ワイシャツが毎日のように罪人の返り血で真っ赤に染まってるんですもんねェ」
「え、本当ですか土方さん……!」
「誤解を招くような言い方すんな総悟!あと名前も間に受けんな!」
 
 いやまあ俺が汚してるのは事実だけどよ、なるだけ気をつけるわ、と土方さんが詫びた。正直な話、返り血に染まる土方さんの姿というのもなかなか普通に想像がついてしまう。

「いえいえ、大丈夫です──それにしても、真選組って毎日そんな血みどろの戦いを繰り広げてるんですか?」

武装警察というくらいだから、それなりに激しい仕事も多いのだろう。私の純粋な疑問に、白飯をかきこみながら総悟が答えてくれた。

「まあ、流石に毎日流血沙汰起こしてるわけじゃありませんぜ。普段はパトロールしたり、色んな行事の警備をしたり、ってとこですかねィ」
「……時々碌でもない仕事も舞い込んでくるけどな」
「た、大変そうですね……」

碌でもない仕事、というフレーズだけでその内容の凄まじさが嫌というほど伝わってくる。
 お前もこれから巻き込まれていくことになるだろうよ、と意味ありげに笑う土方さんに、恐怖を感じずにはいられなかった。
 

 朝食を全て平らげて、暖かいお茶で一息つく。目の前では、煙草を吸おうとする土方さんに、総悟が禍々しい視線を送っていた。

 「このあとは二人とも、普通にお仕事なんだよね?」
「ええ。俺はこれからパトロール、んで土方さんは屯所で事務仕事ってとこでさァ」
「……またどっかでサボんなよ?総悟」
「それはサボれってフリと捉えていいんですね?土方さん」 
「んなわけあるか!」
「落ち着いて、落ち着いて土方さん」

また言い争いを始めた二人をまあまあと諌めながら席を立つ。土方さん、総悟の軽口に一々腹を立てないでください。
総悟に、サボるなよ、と再三釘を刺して部屋に戻る土方さんと、気が向いたら、と気のない返事をしてパトロールへと向かった総悟を見送って、私も与えられた仕事に戻ることにした。これから一日、長い長い仕事が始まる。
  




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