「ごめんね、休みなのにわざわざついてきてもらっちゃって……おかげでほんとに助かりました」
「こんくらい、お安い御用でさァ。……むしろ姉ちゃん一人で出掛けて、何かあった方が困るんで」

両手にビニール袋を提げたまま、総悟は言う。弟にここまで気を使わせてしまうなんて、姉として不甲斐ない限りだ。

「……そんで、あとは何買えばいいんでしたっけ?」
「あ、ええとね……ちょっと待って」

手に持ったメモを再度確認する。えーと、洗剤は買った。ティッシュも買った。ボディソープも買った。あとは──

「マ……マヨネーズ?」
「姉ちゃんそれ絶対要らねェ」

もう屯所に腐る程あるでしょ、むしろ捨てたいくらいでしょ、と総悟が言う。買い物リストにいつの間にか土方さんが書き加えたのだろうか──というか、これって真選組の経費で落として良いものなのだろうか。とりあえず総悟の言う通りまだ食品庫にはマヨネーズが箱単位で残っているはずだし、大丈夫だろう。私はメモを着物の袂へと仕舞った。


 私が屯所へ来て数週間。隊士の人たちとも徐々に打ち解けてきたし、その上女中仕事も段々板についてきて……たらいいと思う。そこはまだ不安が残っている。
 そして現在私は、屯所で足りなくなった日用品を買うために、近くの商店街へ来ていた。本当は私一人で出掛ける予定だったのだけれど、今日は休みだった総悟が自分も同行すると名乗り出て、結局二人でお店巡りをすることになった。買い物に警察車両を使うのもまずいので、徒歩でここまでやってきている。お安い御用だと総悟は言うけれど、休暇中なのに道案内を頼んだ上に荷物持ちまで任せてしまって、少々……どころかかなり申し訳ない気分でいっぱいだった。


 「……んじゃ、これで必要なものは前部買った、つーことで」
「うん。……今日は本当にありがとう!迷惑ばっかかけちゃって」
「俺ァ別に好きでついてきただけだから、気にしねーでくだせェよ」

弟が姉の手伝いするのなんて当然でしょ、と総悟はこともなげに言う。……昔から思っていたけれど、姉思いの弟を持って、お姉ちゃんは幸せです。

「ああでも、こんなによくしてもらったんだし……私にも何かお返しさせて?」
「お返しか……そうですねィ……」

何か欲しいものとかある?と聞くと、総悟はうーんと唸った。答えが出るのを待っていると、ああそうだ、と総悟は手を打った。

「んじゃ……あそこ、行きたいです」

心做しか照れ臭そうに総悟が指さしたその先には、“でにいず”の看板。そういえば、昔時々家族三人でご飯を食べにいったっけ。最近じゃ、久しくファミレスなんてご無沙汰していた。


「総悟がそれでいいなら、もちろん!」
「じゃあ、早速行きやしょう!」
「うん、ってちょっ、待って、待って総悟!」

──わかったから、ちゃんと行くから走らないで!
まるで子供の頃に戻ったようにきらきらとした笑顔を浮かべて、総悟は私の手を取り、ぐんぐんと歩き出した。
  




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