店内に三人組の客が入ってきたと同時に、総悟の顔からサッと血の気が引いていく。何事かと声のした方へ目を向けると、そこには明らかに奇抜な身なりをした客が三人。
 チャイナドレスを着た、可愛らしい朱色の髪の少女。眼鏡を掛けた、真面目そうな風貌の黒髪の少年。そしてもう一人は、白地に浅葱の波模様をあしらったような着流しを着た、珍しい銀髪の男性。顔は全く違うのに、どこか土方さんに似ているようなのは気のせいだろうか?

 「姉ちゃんあんまジロジロ見ちゃ駄目ですって」
「あ、それもそうか」

総悟に急かされて、正面に向き直る。知らない人だとは言ったものの、その顔はいつになく焦っているように見えた。やはりこれは何かあるようだ。何か隠してるでしょ、と聞こうとしたその時。

「オイテメー何でここにいるアルかこのサディスト!」
「かっ神楽ちゃん、お店に迷惑かかるから叫ばないで!」
 
 歩いてきた朱色髪の少女が、総悟を指さして叫ぶ。偶然にもウエイトレスは、その三人組を私たちの隣のテーブル席へと案内しようとしていたのだ。少女の後ろにいた銀髪の男性が、私と総悟を交互に見る。

「オイオイ総一郎くん、警察官がこんな昼間から職務怠慢の上彼女とファミレスデートか?警察も地に落ちたもんだな」
「コイツに関しては元から地面にめり込んでるアル」
「二人とも言い過ぎですって!すみません沖田さん、せっかくお二人でいたのに雰囲気ぶち壊しちゃって」

何故こんなにトゲのある言葉が向けられてくるのか……はひとまず置いといて、確実にこれは私たちの関係を勘違いされている。
 違うんです誤解です、と弁明しようとした私を総悟が制する。

「アンタら何か誤解してるみてーなんで言っときますけど、この人俺の姉ちゃんですから。あと今日はオフだし俺の名前は総悟です旦那」

勝手に邪推しないでもらえますかね。そう言って総悟は苺を一つ口に放り込んだ。そうです、恋人じゃないですからね!と私も後に続く。

「……つい最近江戸に上京して来たんです。ねえ総悟、この人たち、お友達?」
「友達なわけないネ!つーかこんな優しそうな人がお前の姉ちゃんなわけないアル嘘つくなこのドS野郎」
「そんな意味も無ェ嘘吐く訳ねーだろこのチャイナ。俺ァ姉ちゃんとパフェ食ってんだよ邪魔だから失せろ」
「んだとコノヤローお前こそ一回表出ろヨ」

二人の間に見えない──いやむしろ見えるレベルに火花が散る。見た限り、元から総悟の少女は犬猿の仲だったらしい。先程総悟が青い顔をしていた理由がなんとなく分かった。止めに入った方が良いかと思ったものの、向こうの二人は特に驚きもせず呆れていると言った風だ。

「まさか貴方が沖田さんのお姉さんだったなんて……変な勘違いしちゃってすみません──あ、僕、志村新八っていいます」

眼鏡の少年──新八くんが、残り二人も紹介してくれる。銀髪の男性は坂田銀時さん、チャイナ服の女の子は神楽ちゃんというらしい。

「私は……総悟の姉の沖田名前です。銀時──さんたちはえっと、どういうご関係で?」
「んなかしこまらなくても銀さんでいいよ──かぶき町で万事屋……まあ何でも屋みてえなモンをやってる。アンタもなにか困ったことがあったら来るといい」
「何でも屋……すごいですね!」

差し出された名刺には、「万事屋銀ちゃん 坂田銀時」と書かれている。それを眺めて、珍しいですね、と素直に感心する私の姿に、三人が妙に驚いた顔をする。

「……アンタやっぱ本当にコイツの姉ちゃんか?外見っつーより中身からして同じ血を引いてるとは思えねーな」
「旦那それ俺のこと貶してますよね」

ようやく隣の席に腰を下ろした三人に、こっちの邪魔しねーでくだせーよアンタら、と総悟は不機嫌そうに言う。

「それはこっちの台詞ネ!私がデッケーパフェ頼んでも絶対一口欲しいとか言うなヨ」
「誰がテメェの唾ついたモンなんて食うかってんだよ」
「総悟、落ち着こう。それくらいにしよう、ね」

私が諌めると、しぶしぶ総悟は黙る。やっと騒ぎも収まり、万事屋の皆さんも隣でメニューを眺め始めた。
 総悟はあまり良く思っていないようだけれど、この人たちも真選組の人たちと似て賑やかな人たちに見える。
 いつか何かあったら依頼してみようかな、なんて思って目の前のパフェに視線を戻すと──

「そ、そんな……ッ!」

グラスの中でドロドロに溶けたアイスと、それに埋もれたベリー達の姿に、私はがっくりと肩を落とした。
  




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