五─@


 賑やかな歓迎会から一夜が明け。いよいよ始まった女中としての仕事の忙しさに、私は既に目を回していた。

 朝の五時頃に起床して、溜まったままの山のように積まれたワイシャツやら着物やらを洗って干しての繰り返し。汗汚れくらい落とすのはわけないのだけれど、そこはやはり警察機関、泥や血液の汚れの多いこと。洗濯機にぶち込んだところでこの汚れには敵わないだろう。手洗いをするにしても、並の洗剤じゃ落ちるわけもなく、備え付けの漂白剤や重曹を駆使し地道に汚れを落とすしかない。
 その上、今晩までには洗濯物が乾いていなければならないから、何とか朝稽古が終わるまでにはこの仕事を片してしまいたかった。


 「や、やっと終わった……」

血や汗や泥やら頑固な汚れの染み込んだ衣服を全て洗い終える頃には、既に朝の稽古も終わり、隊士達それぞれが食堂で朝食をとり始めていた。これを毎日やることになるとは──女中仕事恐るべし、だ。



「おはようございます、姉ちゃん」
「あ、おはよう総悟!」

 縁側の洗い桶を片付け終わると、朝稽古を終えた総悟が歩いてきた。額に汗の滲ませたその姿に、朝からお疲れ様、と声をかける。

「そりゃあ姉ちゃんこそ。せっせと働くのも構わねェが、朝っぱらからあんまり頑張りすぎないようにしてくだせェよ。初日から倒れたってんじゃ世話ないでしょ」
「大丈夫、その辺はきちんと弁えてるから──総悟こそ、昨日酔い潰れてたけど大丈夫なの?」

昨日はぐでぐでに酔っていたくせに、その姿はピンピンしている。いや、まあこの子は昔からそうなのだけれど、私ならあんなに酔ったら二日酔いどころか三日酔いしかねない。

「前から言ってるが、俺ァ宵越しの酒気は残さねェ主義なんだって。土方のヤローとは違って」
「あー……土方さん弱いもんね、お酒」
「……そもそも俺はお前みたいに酔い潰れるような飲み方はしねェよ」
「あ、ひ、土方さんおはようございますっ!」

突如後ろから現れた、眉間に深いシワを寄せた土方さんに、思わず狼狽える。聞かれちゃったか、今の言葉?しかし土方さんは、来やがったな土方コノヤローと睨みを利かせる総悟を気にも留めず、おう、と会釈をした。

「……朝からご苦労さんだな。仕事は終わったのか」
「はい、ちょうど今片付けてたところです」
「んじゃ、朝飯でも一緒に食うか?」
「え、いいんですか……!」

それは予想外のお誘いだった。もちろん、一緒に朝ご飯を食べられるだなんてきっと楽しいだろうけれど、私は仮にも女中という立場だし、みんなに混じって食事を取るのも気が引ける。

「でも、確かに嬉しいお誘いなんですけど……いいのかな、私なんかが」
「別に姉ちゃんが食堂で飯食ったくらいでとやかく言うような輩ウチの組にはいやせんって。──土方さん、アンタちゃっかり姉ちゃんと二人きりで飯食おうなんざ考えてないでしょうね」
「誰がんなこと考えてるっつったよ──まあ、総悟の言う通りだ。第一女中ってのも名目上の話だし、来たばっかのお前が色々気にする必要もねェよ」
「そうです、かね……じゃあ、お言葉に甘えて……っ!」

暖かい言葉に後押しされて、私は二人と一緒に食堂へと向かった。
  




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