2017/07/24
縁の下に忍び込んで驚き提供の為に意気込む鶴丸。
鶴「今日こそはあの子の驚きに満ちた顔を拝んでやるぞ」
《にゃあ》
鶴「おっと、迷い猫か?」
どこから来たのか彼の前に一匹の黒猫が現れ、鼻をひくつかせては首を傾げた。
鶴「君も一緒に驚かせるかい?」
首を撫でると気持ち良さそうに目を細める黒猫。くふふと笑って待っていれば程無くして聞こえてきた足音に息を潜めた。
もう少し。あと十数歩で真上に来る。
このたった数秒の緊張感が堪らない。
あと十歩。
あと五歩。
だが、だんだんと大きく響いてきた足音が突然止んだ。
鶴「は?」
ちょっと待て。気配までなくなった?
一体どういうことだと黒猫を抱えながら縁の下から顔を出す。
薬「よ!」
鶴「どわっ!?」
薬「やっぱり鶴丸の旦那だったか」
目の前にはいきなり縁の下を覗き込んできた逆さまの薬研の顔。どうやら先程の足音は薬研だったらしい。
鶴「薬研、君が驚かせてどうする…」
薬「はは!すまんすまん。だがその台詞は俺だけに言うことじゃねぇだろ?」
鶴「?」
薬「…何してんだよ、大将。"そんな格好"で」
…そんな格好?
何のことだと疑問符を浮かべていれば、腕の中の黒猫が薬研に向かって《にゃあ》とひと鳴きした。
腕を蹴って庭に飛び出した黒猫の毛並みが、日の光によって上品に艶めく。
美しい黒に目を奪われているとその身体から淡い光が放たれ、一瞬の内に黒髪の少女へと形を変えた。
その少女とは勿論、鶴丸と薬研の主たる審神者だ。まさか彼女が猫の形をとれるなどと知りもしなかった鶴丸は驚きで声も出ない。
『どうだ、驚いたか?』
鶴「…!」
『鶴丸の手、優しくて気持ち良かったです』
鶴「な…っ!」
ゆるりと目元を和ませる審神者。先程己がただの猫だと思ってした行動に、何とも言えない恥ずかしさが込み上げてくる。
『驚かせてもらえる日を待ち望んでもいますが、私はまだまだ負けませんよ?鶴』
ふわりと鶴丸に微笑んだ審神者はどこか楽しそうに自室へと戻っていく。
薬「…ま、次回も頑張ってくれや旦那」
そう訳のわからない応援を残し審神者を追っていく薬研。
鶴丸は縁の下から顔を出した状態のまま暫く動けなかったが、やがて己の目的が果たせなかったことを理解すると乱暴に頭を掻きむしる。
鶴「またやられたぁあああ!!!!」
清々しいまでの青空に吐き出された咆哮。本丸中に響き渡ったそれに、同士たちは彼の身に起こったことを悟って苦笑した。
(((((また失敗したのか…)))))
『次はどんな驚きが来るのでしょうね?私も次の驚きを考えなければ』
薬「楽しそうで何よりだ、大将」
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黒猫の本丸