敬語…そんなに気に障ってしまったのだろうか?でも、やはり初めて挨拶する神様だ。畏まるのは当然だと思う。私が間違っているのだろうか?



『……あの…』


三「ん?」


『敬語は癖なので、時々砕けさせる程度で…。″様″付けも嫌ですか?貴方のこと、何て呼べばいいでしょう?』



薬研と鶴丸の時は呼び捨てで構わないと言われたからそう呼んでいるけれど、この刀はどう呼ばれたいのだろう?″三日月″と呼び捨てが良いのか…ちょっとだけ砕けた感じで″さん″付けが良いのか…。

わからないから本人に聞いてみよう。ということで希望をとってみたのだけど、そしたらぱちくりと瞬きしてから面白そうに笑われた。何故?



三「はっはっはっは!そう来たか!
成る程、鶴と薬研が懐いた意味がよくわかる」


『?』


三「いやなに、お主は己の考えたことを押し付けようとはしないのだな」



てっきり「こう呼ぶ」と言われるのだと思ったらしい。そしたら本人の希望を優先したから笑ったのだと。
そんなに可笑しいことだったのだろうか?



三「ふふふ…笑ってすまなかったな。
そうだな、俺は″様″付けでなく呼びやすければ何でも良いぞ。″三日月″でも″じじい″でも」


『??″じじい″?』



なんで″じじい″?
どっからどう見てもお兄さんでは?



三「十一世紀の末に生まれたのでな。お主からしてみれば″じじい″だろう?」


『ああ、そういう』



確かにそれじゃあ自分で″じじい″と言うのも納得だ。でも″じじい″って言うのはちょっと失礼すぎる気も…。

…そういえば、私ってお爺ちゃんっていたことなかった。祖父母は父方も母方も既にお亡くなりになっていたし、親戚は論外だ。

……でもそう呼んでしまうのは………うーむ…………



『んー……』


三「む?″様″付け以外ではそんなに悩むのか?」


『いいえ』


鶴「なら何て呼ぼうと思ってるんだ?」


『許してくれるのなら、″おじいちゃん″かな…と』


三「ほぅ…!」


薬「喜んでるぞ。なのに大将は何に悩んでるんだ?」


『…そう呼ぶのは理想を押し付けるみたいで、失礼な感じがしたので』


三「主の理想とな?」


『私、お爺ちゃんとかいなかったので、接し方とかがよくわからなくて』



その理想を彼に押し付け縛るのは嫌だ。それでは前任と変わらないもの。

主従関係を結べば少なからずも不自由は強いられてしまう。仕事以外では自由であってほしいというのが私の願いだ。故に、普段からそう呼んで縛りたくは無いのだ。



三「……まったく、今度の主は禁欲的なのだな」


『?』



ぽつりと呟いた彼は私の前まで来るとふわりと私の頭に手を乗せた。頭に沿うように優しく動くそれはすごく暖かい。



三「″おじいちゃん″で構わん。主の思うお爺ちゃんになれるかはわからんがな、俺は主のような孫は大歓迎だ」


薬「それに、我儘し放題になるのは頂けんが、この本丸は結界を張った時点で大将のもので、俺たちは大将の刀だ。我慢なんかしねぇで、俺っちや旦那たちに言いたいことを言って良いんだぜ」


『!』


鶴「俺にも出来ることがあるなら言うと良い」



力を貸すぞと言って三人はまた笑う。笑顔の似合う刀たちだ。

そしてもう私のことを理解しようとしてくれている。禁欲的とか我慢とか…、それは審神者養成所でも真黒さんに言われてきたことだった。





真「クロはもっと自分を出した方が良い。相手の意見を尊重するのも良いけど、そればかりだと本当の自分を殺すことになるんだよ?」





自分を殺す…。そんなつもりはなかったのだけど、でもよく考えてみると、初対面でまだ理解するに至っていない相手にはあまり自分の意見を優先させたことは無いかもしれない。

今でこそ真黒さんや瑠璃様には言いたいことを言っているけれど、本来あるべき″私″というものは見せたこと無いかも…?
そもそも私自身が″私″をよくわかっていない気がする。こうしたいと思ったことを言えれば、それが″私″なのだろうか?

……彼らが良いと言うならば、言ってみようか。



『では、三日月は″おじいちゃん″て呼びます』


三「うむ!よきかなよきかな」


『よろしくお願いします、おじいちゃん』


三「ああ。よろしく頼む」



少しだけ、私の気も緩んだような気がした。


 

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