四人で資源を運びながら手入れ部屋に行き、行灯に明かりを灯す。蛍光灯もあったけれど、みんな揃って夜に慣れてしまった為、刺激が強いからやめておいた。

さて、刀本体を手入れするのは養成所の演習以来だ。ちゃんと覚えているけれど、やはり本物を前にすると少しだけ緊張してしまうらしい。

慎重に扱わなくてはと意を決し、三日月の本体を暫し拝借して目釘を抜く。鞘から抜いた刀身を見て思わず絶句してしまった。



『…………』


鶴「じいさん…俺が言うのもなんだが、よくさっき遠慮するような言葉が出てきたな」


薬「傷どころじゃねぇじゃねぇか」


三「ははは。いやいや見てくれはそんなだが、そこまで辛くはないぞ」



嘘つけ。と、私たち三人の心は一致したことだろう。

掠り傷と言って伝わるだろうか、細かな傷が刀身全体に刻まれている上に白く濁った汚れが付着していて光に翳しても輝きがどこにも無い。

彼は戦闘に立ったわけでは無いと言っていた。つまり、付喪神としての姿で何らかの形で負傷した場合にも本体に傷がついてしまうということだ。

こんなになるまで彼は苦痛に耐えていたのかと思うと、人間としてやりきれない気持ちになる。
でも、私が申し訳無いと感じても彼には何の得にもならない。そう思う暇があるなら手入れの手を動かさなければ。



『…始めます』










どれくらいの時間が経っただろう?
三人が静かに見守る中、時間のことなど忘れ、夢中になって打粉をかけては上拭いを繰り返す。

下拭いの時点で殆ど汚れが落ちなかった(いや、落ちたのだけど紙がすぐに汚れて駄目になってしまった)ので覚悟はしていたものの、頑固すぎる汚れも繰り返せば何とかなるものらしい。
凝っていた汚れを全て拭い取り、油塗紙でムラ無く油を塗っていくと本来あるべき輝きが見えてくる。

綺麗な刀だ。

柄を戻して目釘を打ち、本来の刀としての手入れは終了。やるべきことはあと一つだけ。



『薬研、鶴丸。お二人の本体も貸してください』


鶴「?俺たちは昨日ので既に治っているが?」


『はい。ですが仕上げがまだなので』


薬「仕上げ?」



首を傾げつつも自身の本体を腰から抜いて差し出してくれた。二人はもう私に対する警戒が全く無いらしい。嬉しいと思いながら、三日月の抜き身の刀の横に薬研と鶴丸も刀身を抜いて並べる。

昨日、私の霊力で治したものの、やはり本体を見ずに手入れするのは難しい。輝きは戻っていても、細かな傷や錆といったものはそのままだった。

掃除の前にやってあげるべきだったと後悔しても後の祭りだ。


 

ALICE+