にじんだ水平線

人と違うことって当たり前なんじゃないの?

みんなと違うと
見えない壁ができてしまう。

みんなと違うと
打ち解け合えない。




そんなことを初めて感じた小学校低学年の頃から
わたし─美月怜菜(みづき れな)─は
自分を偽って、どうにか取り繕って過ごしてきた。


昔からわたしは、自分でもよく分からないが、
人の気持ち、考えていること、真意をその人と話さなくても聞くことができる。
心の声、のようなものが自然に聞こえる。

みんなもそうだと思っていた。
でも違った。
わたしだけだった。


小学校低学年の頃、話さなくても聞こえる、そう言ったらそんなはずが無いとバカにされたり、笑われたりした。

そこで初めて気づいた。
わたしはなにかがみんなと違う。

気付いてからは、聞こえる声を人に伝えることはなく、
ただその人の思いをできるだけ邪魔しないように行動するようにした。
恐らく周りからは気遣い上手に写っているはずだ。


しかし、あまり完璧な配慮をするとそれはそれで怪しまれてしまうため、
この気遣いは疲れるのだ。

毎日毎日、精神的にドッと疲れて、
休む間もなく次の日を迎えて、
ゆっくりできるのは本当に休日だけ。

疲れるけれど、もうずっとそんな毎日を送ってきたから、慣れてしまった。
わたしがみんなの輪の中で、平穏な日々を送る方法がこれなら、それでいい。

そう思っていた。




* * * * *


「怜菜、聞いた?転入生がうちのクラスに来るらしいよ」
「そうなんだ、楽しみだね」
「噂によると男の子らしい!イケメンだといいなあ」

転入生か。
確かにわくわくする気持ちはわかるけれど、
気にする人がまた増えると思うと少し憂鬱である。

「今日からこのクラスに入ることになった、乾快音(いぬい かいと)君だ」

乾快音と言う転入生は
なんとも言えない不思議な雰囲気のある人だ。

「乾快音です。よろしくお願いします。」

一見爽やかな男の子だが、
少し影があるような、本当に不思議な雰囲気を持っている。

よく分からないけれど、
乾快音は、
みんなと違う気がした。
確証はない、本当にただの直感がそう教えてくれる。


「ねぇ、怜菜、けっこうイケメンだと思わない?乾くん」
「確かに……」

小声で友達と言い合った。

クラスのみんなが乾快音に対して同じような感想を持ったみたいだ。

乾快音と話すチャンスは意外にも早く訪れた。


所属委員会がない乾快音を、人手不足のボランティア委員に先生が配置した。

1週間経ったくらいで委員会の集まりがあった。
わたしも元々クラスのボランティア委員だったので、早速乾快音と関わるチャンスを得た。

「わたしは美月怜菜……。よろしくね」
「よろしく…………美月さん、もしかして……」
「ん?」
「ごめん、何でもない…」

何か言いかけてやめた乾快音の心の声が聞こえた。

"この人はほぼ確実にMIだ"


MI……?
なんだろう?


「言いかけたことがあるなら言ってよ、気になる」
「なんでもない、ほんとに」

"この人はMIについてきっと知らないんだ……それならその方がきっと幸せに暮らせる"

「うそ」
「……なんで?」
「わたしには、わかる、乾くんが考えてること、ぜんぶ。聞こえるの」

乾快音は一瞬驚いたような顔をした。
でも直ぐに、納得したような顔になった。


「……やっぱり美月さんはMIだ」
「えむ、あい?」
「やっぱり、知らないんだね……美月さんは他の人とは違うでしょ?不思議な力があるでしょ?……それって僕も同じだよ」
「……乾くんにも力があるの?」
「そうだよ。美月さんとは違う力だけど……」

わたしの他にもいたのか。
みんなと違う人が。


「ただ、美月さんは気を付けた方がいい……美月さんの力は誰もが獲得しようと狙っている力だ」
「そんな事言われてもどうしたらいいの」
「……これを」

乾快音は怜菜に名刺の様なものを差し出した。

そこには
ATNW、という組織の連絡先が書いてあった。

「……なに、これ」
「僕達のような人間が作った組織だよ」
「乾くんは、この組織の人なの?」
「そうだよ……組織は君のような人を死にものぐるいで探している。組織だけじゃない、多くの軍部が、国が、君のような人を探している」
「……そんなこと、急に言われても」
「そうだね。そもそも僕が嘘をついている可能性だってある……っていってももしそうなら、君にはお見通しだろうけど」

乾快音はふにゃっとした可愛らしい笑顔を見せた。

「信じてくれるなら、いつでも連絡して」

わたしの目を乾快音はただ真っ直ぐに見つめた。

「すっかり話し込んじゃったね。そろそろ帰った方が良さそう。送るよ」
「大丈夫、1人で帰れるっていうかいつも帰ってる」
「少し警戒心を持った方がいいと思うよ、美月さん。すごい力を持っているんだから」

乾快音は本当に心配そうな顔でわたしを見つめた。

「……そんな顔しないでよ。わかった、送ってもらう」
「良かった」

満足げな顔で、乾快音は言った。
今まで何も起こらなかったのに急に狙われるような事が起こるのだろうか。



--- mae <back> tsugi
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