01




いつものように家族におやすみを言ってから自分の部屋に行って
いつものよに自分の部屋のベッドで眠りについた。
明日もいつものように目覚まし時計の音と母親の作る朝食の匂いで目が覚めて
いつものような日常が繰り返される……筈だった。

その日は珍しく夢を見ていた。
眠りが深いのかわたしはあまり夢を見ない。

でも朝でもないのに意識がぼんやりとあって、見知らぬ場所にいたのですぐにこれが夢だとわかった。

天井も床も壁も一面灰色の部屋にわたしはいるようだった。
着ている服も寝るときに着ていたパジャマではなく、7分袖の薄桃色のワンピースだった。靴は履いていない。
そしてこの部屋にはどうやらわたしだけらしい。
人の気配を全く感じない。
変な夢だなぁと思いながらぼうっとしていた。
すると突然、灰色の壁にスライドショーのようなものが映し出された。勿論、プロジェクター等無い。
そのスライドショーはよく見るとわたしの思い出たちだった。
幼い頃から最近のものまで、わたしの中で大切に保管されていた思い出たち。
わたしの大切な人たちとの思い出が映し出されていた。
懐かしさに心が安らぐ。
かなり長い時間そのスライドショーを見ていたと思う。
夢の中だから、時間の感覚はよくわからないけれど。

そして急に全てのスライドショーがパッと消えたかと思えば先ほどまで灰色だったはずの部屋が白くなって光っているように見えた。
光りすぎてよく見えない。
かなり強い光のようで目も開けていられないほど眩しくて、わたしは目を閉じた。
するとフワッと体が浮く感覚がした。
そこから先はよく覚えていない。

***

ハッと目を開ける。
夢を見ていた、と。
でもわたしが今いるのは使い慣れたベッドではなかった。
見知らぬ部屋にいるようだった。
ほのかに檜の香りがする部屋に寝かされているみたいだった。
……まだ、夢を見ているのだろうか。
しかしそれにしてはこの意識の冴えっぷりは何なのだろうか。
夢にしては意識がハッキリしすぎている。
わたしは今確実に此処に在る。

コンコン……

すると部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「目が覚めたかしら?」

淡い紫の浴衣のような衣服を纏った綺麗な女性が現れた。
背も女性の中では高めで、スラッとしている。

「わたしの名前は紗聖(さら)。
今、何が起こっているか分からないでしょうけどわたしは貴女の味方よ。危害を加えたりしないから警戒しないでもらえると嬉しいわ」
「あの……」
「まずは此処が何処かもわからないでしょうから……順を追って説明するわ。此処は"夢の世界"。人々が見る夢の力でこの世界はできているの。
夢ができるときには必ず"夢の石"というものがあって、それは様々な力を持つの。
とりあえず、それの詳しい説明はまたするとして、何故貴女が此処にいるかの方が大事ね。
貴方は自分の見た夢に取り込まれてしまったの。稀にそういうことが起こる。この夢の世界にも貴女みたいに夢に取り込まれてそのまま此処で生きている人もいるの。
でもね、元の世界に帰る方法はちゃんとあるのよ……少し難しい方法なのだけれど」

わたしが紗聖の話を聞きながら訳が分からないという顔をしていたのだろう、紗聖はそこで話すのを一旦やめた。

「ごめんなさい、急にどばっと話されても困惑するわよね。
要するに此処は貴女がいた世界とは全く別の世界で、一応帰る方法はあるってこと、そしてわたしは貴女の力になるってことだけは覚えておいてもらえるかしら?」

わたしは黙って頷いた。

「ああ、そうだ、まだ名前を聞いていなかったわ」
「谷山美夕(たにやまみゆ)です」
「それじゃあ美夕、とりあえずわたしの屋敷を案内するわね」

紗聖に促され、紗聖の屋敷を見て回った。
時代劇に出てきそうな古き佳き和風建築のお屋敷だった。
最後に紗聖はわたしに浴衣をくれた。
淡い桃色の浴衣だった。

「これを着たらさっきの話の続きをするわね。時間があまりないの、急ぎ足なのを許してね」

紗聖は申し訳なさそうに言う。
わたしはぶんぶんと首を振った。

「謝らないで下さい……こんなわたしにここまでして下さって、とても有難いです」
「いいのよ、これがわたしの役目でもあるんだから」

紗聖は優しく微笑んだ。
そして、わたしに浴衣を着付けてくれた。

「じゃあ、改めて話の続きをするわね」

紗聖はゆっくり話してくれた。
紗聖の話に拠ると、此処は"夢の世界"であり、人の見る夢の持つ何らかの力でできているらしい。そしてその人の夢にある力は夢の根源である"夢の石"に由来している。
夢の石はこの世界の色々な所に在って、そのほんの小さな小さな欠片でさえ力を持つ。
そして夢とは必ず対になっているもので、夢の石もそれぞれ対になって存在している。
夢に取り込まれたわたしが元の世界に帰るには、わたしを取り込んだ夢とは対になっている夢を探し、2つの夢の石の欠片を合成し、破壊しなければならない。
勿論、対になっている夢を探すのは容易いことではないらしい。
さらに元の世界に戻るために活動していいのは1年間のみ。何故なら夢の石を破壊することはこの夢の世界の一部を消すことになるからである。夢に取り込まれた者が元の世界に戻る権利を奪ってはいけないが、夢に取り込まれた者もまた夢の世界を壊す権利もない。
だが夢に取り込まれてしまう者は、多くはないが決して少なくはない。
また一対の夢の石を見つけることも容易いことではないので、チャンスを与えることになっているのだそうだ。

「……わたし、元の世界に戻りたいです……」
「わかっているわ。できることは何でもするし、力になるわ。絶対戻れるって断言することができないのが申し訳ないところなのだけど……」

紗聖はわたしの手をぎゅっと握った。

「……大丈夫、わたしが貴女を元の世界に返す」

わたしよりも、紗聖の方が辛そうな顔をしているような気がした。

「紗聖さん……」
「さぁ、そろそろお昼の時間ね。行きましょう、きっと用意ができているから」

あのとき紗聖が辛そうな顔をしていたのは、わたしの気のせいではなかった。
もっとも、わたしが紗聖の辛そうな顔の理由を知るのは少し後のことだったが。




tugi




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