裏切り者への第一歩







その日の近藤さんはいつになくそわそわしていた。土方さん伝えで、真選組出動部隊のメンバーは夜に緊急召集があると言われた。隊務を終えた隊士達が続々と会議が行われる部屋へと入ってくる。全員が揃った事を確認して山崎が近藤さんを呼びに出て行った。私の隣には土方さん。精神統一だろうか。正座をして瞼を閉じている。しばらくすると近藤さんを連れて山崎が戻ってきた。


「全員揃っているみたいだな」


正面中央に近藤さんが腰を下ろす。それと同時に土方さんは目を開いた。


「みんな仕事後にすまんな。今回開いた召集についてだが、巡回中などで聞いた者もいるかもしれん。今回その噂が確実との事に至った。山崎」


「はい」



監察の山崎が立ち上がる。山崎がいるという事は前からその噂というのは動いていたんだろう。


「隊務お疲れ様です。えー、本題からお伝えします。少し前からある噂が真選組に入る様になりました。その噂と言うのが以前春雨の末端組織が若者を中心に売買をした転生郷と言う麻薬、その転生郷のいわゆる第二の麻薬が今出回っているようです。何者が製造、売買しているかは未だ掴めていません。最初は吉原のみに出回っていたみたいですが最近は地上にも出回り、百華にも手に負えないとの事。今回監察の活動中、とある場所でその第二の転生郷の受け渡しが行なわれるという情報を入手しました。今回はその現場に突撃をかける内容となります」


それを言い終えると山崎は座った。近藤さんは山崎に続いて作戦を話しだした。


「日は明日、フタサンマルマルに決行。トシとなまえちゃん、その部下隊士達は2人に続け。俺と総悟、その部下隊士は俺らに続け。山崎を始めとする監察部隊は全体の動きを俺に随時報告。あくまでも今回は取引に関わった者達の一斉検挙のみ。その他情報を得ようとも単独の行動は不可。情報の内容のみを真選組に持って帰ってくるように。待機場所は各隊に追って報告する。…どんな奴らが糸を引いているか分からん。皆、心してかかるように。そして無理はするな。以上、解散」



解散の言葉で隊士達が部屋を後にした。最後に部屋を出るのは結局いつもの顔触れだった。まあ、幹部なのだからそうなんだけど。



「…じゃ私も部屋に戻りまーす」



若干痺れ出した足の痛みにフラつきながらも何とか平然を装って歩き出す。


「なまえ」


出ようとする瞬間、土方さんに呼び止められた。


「…危ねぇ事考えんなよ」









「…分かってます」



あの時何故私は振り向かなかったのだろう。土方さんの顔も見ずに部屋を後にした事に後々後悔をするのに。


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