「キッド、入るぞ」 「…あァ」 呼ばれた声に目を開けば、視界に入った奴は見慣れた男。 「こっちは片付いた、傷の具合はどうだ?」 言われたことに一瞬考え込んじまったが、そういや海軍の中将とか言う奴が来たんだったな。 「キッド、大丈夫か?」 「ァあ?」 何を聞いてやがる。この俺がこれくらいの傷で…っ。て、なんだ、何かオカシイ! 「っ!!!」 バッ、と着ていたコートを脱ぎ捨てる。キラーの奴は俺の突然の行動に驚いているようだが、そんなこと今は気にしちゃいられねェ。 「!!…」 「…っ!!キッド、どういうことだ」 「ハハハッ!」 笑いが漏れてきやがる。ダメだ、止まらねェ。 「ハハハハハハッ!!」 「おい、キッド説明しろ」 「あ゛?あァ」 キラーは明らかに動揺している声を出す。まァ、ムリもねェか。さっきの戦況でこいつは俺の怪我を目の当たりにしている。というより、コイツの目の前でわざと受けてやったからなァ。あんときのコイツの反応はそりゃァ一興だった。 まァ、そんなことよりも、今はこっちだ。中将とかほざく奴は、俺の肩に剣を突き立てた。もちろん最高の赤が飛び散ったな。だが、今はどうだ。その受けたはずの傷がどこにも見あたらねェ。口角が勝手に上がっちまう。 「説明も何もねェ」 「?…どういうことだ」 「治ったってことだァ」 「…」 俺の返答に大層不満そうな雰囲気を漂わすキラー。だがな、あァ、俺にもわかんねェな。お前の望む答えをあいにく俺ァ持ち合わせちゃいねェ。だが、一つ確実なのはあの夢だ。あの、クソガキがやったんだろう。ハッ、面白ェじゃねェか。 「信じられん」 「あァ」 「何かあったのか」 「また話してやるよ」 「…」 「不満か?」 「いや」 「…」 明らかに面に「不服だ」って出てるぜ、キラーの野郎。面見えなくたって、俺にとっちゃコイツの面なんて見えてるも同然だ。仕方ねェ。だったら…… 「調べて欲しい奴がいる」 「…?」 「この傷に恐らく関係がある」 「…、わかった」 チラリと俺を一瞥するキラー。「興味がわいた」、そんな空気を向けてきやがる。納得はしていないようだが、ギリギリここらで手を引いてくれるラインは越したらしい。俺ァ言葉なんざで説明すんのは性じゃねェ。確かに傷が消えたとなれば気になるのもわかる。だが、キラーの奴にはいずれ話す。だから待ってろ。いずれテメエに拝ませてやるからよォ。あのクソガキ、引きずり出してなァ。 「甲板にいる奴らに、塵は捨てるように言え」 「了解した」 背を向けるキラー。出て行く寸前にこちらを振り返った。 「キッド、最近妙なうわさがあってな」 「ァあ?うわさだァ?」 「調べてみる価値はありそうだ」 「……」 その言葉を最後に部屋を後にしたキラー。アイツの頭の良さはわかってはいたが、まさかここまでとはな。今の会話で目途がついたってか?ハッ!…無駄に長年一緒にいたわけじゃねェな。感づきやがった。さすがの副船か?ククッ、面白ェ。 まァいい、調べればわかることだ。 クソガキ待ってろ、この手でぶっ潰してやるぜ