Ignorance is bless U

入ってきた方と逆の扉から外に出ると、そこは開けた場所で、院長の館へと続く橋がかかっていた。旅芸人や神父などが数名いる他には人は居なかった。院長の館へと続く橋には、宿舎の入り口と同じく見張りがいて、団長の許可がなければ通してもらえそうになかった。

そして、そこにいた人から、道化師が院長の部屋へと向かったという話を聞いた。クロゼルクのことは聞いたこともないと言われたが……。

「ドルマゲスに違いない……。いつの間に……!?」

エイトが悔しそうな顔で言う。ゼシカは怒りに満ちた様子で院長の館をにらんだ。

「でもあの見張り達が通してくれるわけ……ないわよね」

「団長の許可、貰えるか交渉してみましょうか?私なら、もしかしたら……」

クローディアが進み出て提案した。ヤンガスが良い案でげす!と言ったが、果たして間に合うかどうか。

ここにいても仕方がないと、とりあえず彼らは宿舎の中に戻った。すると、赤い目立つ服を着た銀髪の男が、所在なさげに立っていた。彼こそ、探し求めていたククールだ。ゼシカが嫌そうに指輪を手にして、ずんずんと彼の方へ向かった。

ククールはこちらを目にそて、歩み寄ってきた。

「あんたたち……。酒場であったあの時の連中だよな?どうしてこんな所に……?」

不思議そうに彼が尋ねると、ゼシカは彼の指輪を目の前に突き出して答えた。

「なにが『どうしてこんな所に』よ!あんたが来いって言ったんでしょ!こんな指輪いらないわよ!」

「ゼシカ、少し落ち着いて……」

クローディアは、余りにも大きな声を出す彼女をいさめる。周囲に居る騎士に追い出されてはかなわないと思ったのだ。

一方のククールはその指輪を見ると、少し考える素振りを見せた。

「指輪……?…………そうか、まだその手があった!なあ、あんたらに頼みたいことがあるんだ。オレの話を聞いてくれ」

深刻そうな顔で彼はエイトたちを見た。だが、ゼシカはそれをものともせず言い返す。

「頼み!?冗談でしょ?どうして私たちが、ここであんたの頼みを聞いてやらなくちゃいけないのよ!」

「いいから聞いてくれ!のんびり話してる時間はない!」

負けじとククールはそう言うと、あたりを警戒するように見回す。

「……感じないか?とんでもなくまがまがしい気の持ち主が、この修道院の中に紛れ込んでいるのを。聞いた話じゃ、院長の部屋に道化師が入っていったらしい。この最悪な気の持ち主は恐らくそいつだ」

「……道化師…………!」

ゼシカはそれに驚き、うつむいた。

ククールに言われて、エイトも意識を集中させる。ゼシカは指輪に気をとられ、ヤンガスはもともとそういうのを気にしない質なのか、わからない様子だ。クローディアは先程からそれを察知しており、大方ドルマゲスだろうと目星をつけてはいたが。彼女の追いかけているクロゼルクは、人気のない場所に姿を見せるため、彼女でないとすれぱドルマゲスしかいない。

「そいつの狙いまではわからないが、とにかくこのままじゃオディロ院長の身が危ない!頼む。修道院長の部屋に行って、部屋の中で何が起こっているか見てきてくれ!」

ククールは悲痛な声で懇願した。

「エイト……これは……」

クローディアは、険しい顔つきで彼をみやる。

「ああ。その頼み、必ず果たしてくる」

エイトは、ゼシカとヤンガスを見てそう言う。それにククールはほっと安心したようにうなずく。

「……ありがとう。恩に着るよ。じゃあ、今からオレが言うことをしっかり聞いてくれ」

そうして、ククールは修道院長の部屋に向かうための別ルートを教えた。どうやら数十年前に閉鎖された、旧修道院跡地から行けるらしい。この辺りで流行った疫病が原因で閉鎖されたということだが。そこへの入り口は、騎士団員の指輪が鍵となっているようで、ククールの指輪はまだ持っていなければいけないことになった。

だが、そこからでも時間がかかることは容易にわかる。クローディアは、マルチェロ団長に、直談判しようと思い、そのことを伝える。その話に、ククールは拍子抜けした。

「絶対無理だよ、お嬢さん。あの堅物頭が通してくれるわけがねぇ!」

「でも、一応話してみる価値はあるわ。エイトたち三人でも、旧修道院跡地はいけるはず。私一人で別行動するだけなら、そこまでリスクはないわ。もしかしたら、うまくいけるかも」

ククールは、意思の変わらない彼女にため息をつき、仕方ないと諦めた。

「それじゃ、クローディア。無理だったらここで待っててくれ。旧修道院跡地ですれ違っても困るからね」

「ええ、二人とも。ゼシカをちゃんと守ってあげてよね?女の子なんだから、危ない目に合わせちゃダメよ」

エイトたちとクローディアは宿舎の入り口で別れた。

「……クローディアといったか。あんた、マルチェロ団長がどんな人物かわかってるんだな?あそこまで言い切るからには、自信あるんだろう?」

ククールは訝しげに彼女を見る。

「正直半々です。ですが、上手く行けば、彼らより早く着くことができることは確かです」

クローディアは、意思のこもった目付きで彼をみやった。ククールは、予想外のことに目を丸くする。

「やれやれ、オレはアイツとは因縁の関係だからな。あんたがいくら美しいお嬢さんと言えど、悪いがこればかりは手伝ってやれねぇから。そこだけはわかってくれよ?」

「元より一人のつもりです。どうぞ、心配なさらずに」

クローディアはそう言うと、すたすたと二階への階段へ向かって歩いていった。ククールは、心配そうな顔でそれを見送った。

ALICE+