Lie or truth

クローディアは、案内されたときと同じルートでマルチェロのいる団長室へと急ぐ。早く行かなくては、院長が被害に遭ってしまう。

団長室の前には一人の騎士が立ちはだかっていた。彼は団長室の方へと歩み寄る部外者に気づくと、近寄ってきた。

「先程の娘か。だが、ここに何用だ?お帰りになったのではなかったのか」

「急ぎマルチェロ団長に伝えたいことがあり、戻って参りました。どうか、少しのお時間をいただきたい」

緊迫した表情でクローディアは騎士に話すが、彼は無表情でその申し出を断ち切った。

「団長は先程お戻りになられて休憩中だ。今は通すことまかりならぬ。さあ、帰った。話なら後日聞くと言われていたであろう」

だが、ここで身を引くほど彼女も弱気ではなかった。

「急を要するのです。……でしたら、あなたにお話しすればよろしいですか?」

「はぁ!?」

頭の固い騎士団員たちが、易々と通してくれるわけがない。それは先ほどのエイトたちと一緒に居たことでよく知っている。案の定、目の前の男は変な理屈を述べる。

「何を言うかと思えば!ははっ、ふざけたことを。急を要すると言われようと、大概くだらないことばかり。団長の大切なお時間を割いてまで聞くようなものではない。さあ、帰った!そもそもここは女人禁制!先程は入れたことを感謝せよ!」

騎士のクローディアを追い出す勢いに流され、折角二階に上がったのを階段下まで追いやられてしまった。男はクローディアを見下しながら一睨みすると、静かに身を翻していった。

「……くっ」

奥歯を噛み締めても結果は変わらない。だが、下手に騒いでは騎士達の思い通りとなって、すぐに追い出されてしまう。それでは折角この宿舎に入れたのも全て無駄になる。

そこへ、クックッと笑うのが背後から聞こえた。後ろを振り返ると、赤い服の男、ククールがいた。

「下まで声が聞こえたぜ。な、石頭の部下が通してくれないだろ?それにしても、あんたが変に騒ぐ人じゃなくて良かった。じゃなかったら問答無用で追い出されてたぜ」

「……そうですね、失念していました。あの堅物の見張りが、易々と通してくれる訳がないことを。マルチェロ様は話を聞いてくれるでしょうが、その前に門前払いされてしまっては話すことすら……。ああ、エイトには申し訳ないことをしてしまいました」

クローディアはそう言って肩を落とす。左手で頬に手を当てながらうつ向く彼女に、ククールは自分なりに彼女を励まそうと思考回路を巡らせる。そして、いつも酒場で側に侍らしている女の子と同じように相手してあげれば……。という考えに至った。

そうなると、ククールの行動は至って簡単であった。クローディアの隣へと寄りそい、スッと彼女の右肩に己の手を添える。

「まあまあ、そんなに落ち込むなって。君の仲間がすぐ駆けつけてくれれば院長の身は安全なんだ。信頼する仲間なんだろう?オレたちも信じようぜ、な!」

そう言いながら、ククールは甘いマスクで左下からクローディアの顔を覗きこみ、ウィンクをした。それがいつものことだった。そして、どんな女性たちも、彼のこの動作に目をハートにし、頬を赤く染めるのが当たり前だった。悩みなんてあっても、そんなものは吹き飛んでしまい、ボーッとのぼせてしまうはずだった。

「…………」

クローディアは、口を少し開けたまま目を点にしてそれを眺めていた。ククールはその腰を曲げた体勢のままでいたが、辛くなったのかそれをやめ普通に立った。もちろん右手は肩にまわしたままであるが。

「……大丈夫かい?お嬢さん」

クローディアはそのまま立ち尽くした状態でいた。彼女の頭の中はもれなくショートするところであった。

「いえ、大丈夫……です。その、いきなりこんなことされるとは思わず……。すみません」

苦笑いしながらクローディアは述べる。正直なところ、彼女はこのような体験がなく、どうすればいいのかわからなかったのだ。顔の良い男といえど、自分より遥かに年下の男に頬を赤く染めるなど、考えられないのだった。

「はは、そりゃすまなかった。……で、お仲間が来るまで、お嬢さんはどうするつもりだい?」

茶番はおいといて、実に彼のこの質問は的を貫いていた。マルチェロと話すことができなくなった今、己の役目はなくなってしまった。

「……どうしましょう。ただここで待つくらいしか……今の私には。やたらに動けば、すれ違ってしまうでしょうし……」

「だよな……。あ、さっきも言ったけど、オレ暫くこの修道院から出ることができないんだ。次の役割の順までまだ時間がある。裏に修道士や騎士達が近寄らない場所がある。そこで少し話でもして時間潰さないか?」

その誘いは願ったりかなったりだった。お互い暇なもの同士、初めはどぎまぎとしていたが、暫くすれば花が咲き、その時間はあっという間に過ぎた。

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