Lie or truth U
夕日も沈んだ頃、修道士や騎士たちの宿舎が急にざわざわと騒がしくなった。
「どうしたんだろう……」
ククールは不思議に思い、様子を見に戻っていった。暫く経っても戻ってこないククールに、クローディアは違和感を覚えた。
「何かしら……、嫌な予感がする」
そう呟くと、クローディアは座っていた階段から立ち上がり、宿舎の方へと、ククールの後を追った。すると、大きな足音を立ててククールが走ってきた。
「ハァッ、ハッ、大変だ!クローディア!!」
「ククール!?」
息を荒くしながら、ククールは続けた。
「ハァ、エイトたちが……あんたの仲間が牢屋に……」
「……え、ど、どういうこと……?」
突然のことに、クローディアは戸惑った。だが、ククールは真剣な顔で諭すように言葉を並べた。
「説明は後だ、あんたも下手したら巻き沿いになる。ここは危険だ、早くドニの町へ行った方がいい」
「で、でもエイトやヤンガス、ゼシカが……!そんな、彼らだけを置いていっては……。それに、道化師は!?」
ようやく思考回路が追い付いたとき、事の重大さに気付いたクローディアは慌て始めた。
「院長は無事だ、道化師の姿も気配もねぇ。だが、団長が異変に気づいて院長の館に行った時に、そこに居たのはエイトたちだけだったんだ。そうしたらあの団長だ、奴等が容疑者と決めつけるに決まってる……」
「そんな……!」
マルチェロはそこまで短慮な人だったろうか……。いや、その状況下では怪しまれても仕方がないのかもしれない。と、思案しようとしたが、体が急にフワッと持ち上がった。顔をあげると、ブルーの瞳と視線が交わった。
「あんたの仲間はオレがどうにかする。だから一刻も早くここを出るんだ!ドニに行けば明日には絶対仲間は戻らせる。約束する!」
そう言っている間にも、ククールはクローディアを姫抱きにし、早歩きで修道院の入り口にまで抱きかかえていった。クローディアは舌を噛まないようにと、口を開くことがままならず、ただ彼の端正な顔を眺めることしかできなかった。そして、ようやく降ろしてもらったときに彼女は話すことができた。
「……私、そこの馬車にいるわ。私たち、あの馬車と一緒に旅してたから……」
「そうか、くれぐれも騎士たちには注意してくれよな。それじゃ……」
「ええ、……エイトたちを頼んだわよ」
「まかせとけ!美しいレディーの頼みを叶えるのがこのオレの役目だからな」
そう言ってウィンクすると、ククールは走って行った。
一人になったクローディアは、修道院の入り口の目の前にある噴水を見やった。もう辺りは真っ暗だった。月が出ており、周囲は明るい方ではあったが……。
ぼんやりと眺めていたが、突如馬の嘶きが辺りに響いた。それは聞き覚えがあった。
「ミーティア様!?」
クローディアはドニの町とは反対の方へと急いだ。トロデ王はああ見えても剣の扱いは上手である。エイトや他の人が離れていても馬車が無事なのは、彼がいつも一緒だからである。
だが、今回はその緑の姿がどこにもなかった。蛾のような姿の魔物に、棘のついた首輪を持った犬の姿の魔物がいくつかわいていた。
「やはり魔物か!その馬車から離れなさい!!」
急いで錫杖を召喚すると、彼女はすぐ呪文を唱えた。
「メラミ!」
二体を魔法で消し炭にすると、後は直接彼女の錫杖で一体ずつ蹴散らした。ものの数分で魔物はいなくなった。
「ミーティア姫、御無事ですか?」
優しく声をかけ、白いからだに傷がないか確認をする。大丈夫と言うように、ミーティアは顔をすり寄せてきた。
「ふふ、大丈夫ですか。それにしても……トロデ王は何処に……。あとは、ここにいてはまた襲われてしまいますね……。暫くあの小屋に居させてもらいましょう。すぐ見つかりますよ、姫様」
そうは言うものの、ミーティアを放ってあのトロデ王が居なくなるはずがなかった。だが、川の近くの小屋に居ても、人一人も通らなかった。どうしようかと悩むものの、あの姿では人のいる場所へは行けるはずがない。それに、エイトたちのこともある。やたらめったに行動しては、こちらの分が悪くなる。
「どうしましょう……」
何度も何度もそれを呟き、もう何回言ったかわからなくなった頃、人の話し声がした。
「なに、どこから……?」
その音がやんだと思うと、 地中から何かがこちらへ来るような気配がした。クローディアはミーティアを入り口付近に移動させ、辺りを経過して見回した。すると、近くに積んであった藁から人の顔が現れた。
「ククール!!どうしてそんなとこから!?」
「うおっ!なんだ、あんたここにいたのか……」
ククールも驚いたようで、藁の下から覗かせた顔は驚きに包まれていた。彼が地中に上がると、見知った顔が次から次へと現れた。ククールが抜け道を使って、エイト、ヤンガス、ゼシカを連れ出してくれたようだ。トロデ王も何故かその中に居て、クローディアの後ろにいたミーティアを見つけるや否やすぐに抱きについていた。
「クローディア!ククールが言った通り、無事たったんだね!良かった……」
「エイト、ヤンガス、ゼシカ!一時はどうしようかと思ったわ……。ごめんなさい、結局マルチェロ団長との話はできなかったわ……」
「ふん!あんな二階からイヤミ男と話すこと事態が無駄だというのがよ〜くわかったわ!話さなくて正解よ!」
ゼシカはかなりお怒りだったが、全員が無事に脱出できたことに、クローディアは安心した。トロデ王が先に外出ると、ククールが声をかけてきた。
「ここまで来りゃ、よほどのヘマをしない限り逃げられる。ま、あれだ。いろいろ悪かったよ」
ククールがそう言うと、エイトが答えた。
「いやいや、最後は助かったよ、ありがとう。これで旅を続けられる」
それに、ゼシカ、ヤンガスが続いた。
「……そうね。ホント、いろいろあったけど。あんたが居なきゃ、あそこから逃げられなかったもの」
「……結局ドルマゲスの手がかりはありやせんでしたなぁ」
それから一言二言交わすと、ククールが小屋の入り口に立った。
「それじゃ、ここでお別れだ。この先のあんたたちの旅に、神の祝福がありますように」
手をふって、彼は小屋を出ていった。
「何だかんだで、あいつも大変なのね……」
「そうみたいでげすな」
ゼシカは、昼間彼に大分当たっていたが、修道院で何かあったのか、ククールを心配していた。
「さ、僕たちも行こう」
エイトたちと、ようやく行動することができるようになった。その事がクローディアをひどく安心させた。ようやく平穏な旅に戻れる。そう思って小屋から一同は出た。
とても明るい夜だった。月が高く上り、夜道を照らしてくれていた。だが、それにしても明るすぎたのだ。
小屋から出た一同は、目の前の燃え盛る炎に目をとられた。ククールも目を見開いてそれを見ていた。
「橋が……修道院が燃えている?バカな……。……まさか、さっきのまがまがしい気の奴が再び……?」
ククールの呟きに、エイトが素早く反応した。
「それじゃあ、まさか!」
「オディロ院長が危ない!」
ククールは今までにないほどのスピードで修道院へ走って行った。
「……エイト、追いかけましょう!ここで逃したらまた被害者が出るわ!」
「クローディア……。そうだね、皆、急ごう!!」
一行は再び修道院へと走って行った。二度と悲劇を繰り返さないために。はやく、もっとはやく。足を前に前に出して走った。