第7話 Reunion

エイトたちは大急ぎでマイエラ修道院へと走った。一行の後ろに続くクローディアは、修道院に近づくにつれて顔が険しくなっていった。身にまとわりつく禍々しい気。忘れたくても忘れられない、忘れるはずのない、あの女の気配。

修道院の入り口付近には、修道院にやってきていた人たちの群れがいた。間をかき分けて中に入り、中庭、宿舎をも通り過ぎた。ようやく院長の館へと続く橋の近くまで来ると、熱気が風に吹かれてエイトたちに襲いかかる。迸る炎は行く手を遮っていた。だが、それを渡るほかに方法はない。エイトが口を引き結び、先頭で橋を走りぬける。ヤンガス、ゼシカ、クローディアもその後ろに続く。燃えさかる紅蓮の炎は服や髪を焦がした。

彼らが走り抜けたところで、後ろからククールが今にも崩れ落ちそうな、炎に包まれた橋を渡ってきた。そして、彼が走り終えるのを待ってたかのように、負荷に耐えかねたその橋は、音を立てて水の中へと吸い込まれるように崩れ落ちた。ククールは間一髪のところで橋からジャンプし、なんとか館側の岸に渡ることができた。脇にいるエイトたちも目に入れず、一目散に館のドアを開けようとするも、鍵がかかっているのか、彼は開けることができなかった。

「開きゃしねえ。くそっ!」

ドアを蹴り飛ばしても何の意味もなさないが、彼は蹴らずにいられなかった。辺りを見回してようやく先ほど助け出した旅の一行が居ることに気付き、ククールはすぐ助力を求めた。

「あんたら・・・・・・!そうか。オレの後を追ってきてくれたのか・・・・・・。いいぞ。助かった!悪いがオレにチカラを貸してくれ!こうなりゃ実力行使だ!これだけ人数が居りゃあどうにかなる!」

そう言ってククールは扉を指さす。

「中からカギがかかってる。さあ!みんなで体当たりして扉をぶち壊すぞ!」

ヤンガスを先頭に一斉に扉へ体当たりを食らわす。大きな破壊音をたてながら扉は開いた。

「やったぞ!」

ククールが喜ぶ声がしたが、その後に言葉は続かなかった。中で騎士が数名、血を流して倒れていたのだ。ククールは大急ぎで騎士の一人へ駆け寄る。虫の息だった。

「おい!何があった!?しっかりしろ!!」

「よか・・・・・・た・・・・・・応援が・・・・・・。はやく・・・・・・院長さまを・・・・・・」

「どうした!?いったい誰が!」

「・・・・・・やつ・・・・・・は、強い・・・・・・。マルチェロさま・・・・・・もあぶな、い・・・・・・」

そう言うなり、その騎士はむせて項垂れたきり動かなかった。ククールは抱きかかえた彼の上半身を横たえ、エイトたちへ向き直る。

「・・・・・・上だ。行こう。お前も来てくれるな?」

「ああ」

エイトがうなずき、ククールはすまないとつぶやく。そして階段を登り始めようとしたとき、うわあああ!と叫び声を上げながらまた一人の騎士団員が頭から滑り落ちてきた。

「あの・・・・・・道化師と魔女、め・・・・・・。誰か、院長を・・・・・・っ!」

その言葉に、クローディアは目を見開く。やはり間違っていなかった。あの女はここにいるのだ。

「魔女・・・・・・。クロゼルク・・・・・・!!」

言うやいなや、彼女は一目散に階段を駆け上った。後ろから名前を呼ばれた気がしたが、彼女の耳には届いていなかった。

階段を駆け上ると、オディロ院長を守っていたのだろう、騎士たちが部屋のあちこちで倒れていた。マルチェロが一人院長の前に立ちはだかっていたが、道化師が杖を一振りするとたちまち壁へと吹き飛ばされた。

「マルチェロ様!」

「兄貴!」

二人の声が重なる。ククールはマルチェロの元へ駆け寄ったが、クローディアはすんでの所で立ち止まった。

空中に浮遊する二人の人物。一人は道化師の姿で、気色悪い肌や髪の色をした、杖を持った男。そしてもう一人は異常に長い、青い髪を持つ女。踊り子のような出で立ちで、修道院には相応しくない姿。青い衣装に身を包んだ彼女の首もとには、緋色に輝く赤い宝石が埋め込まれた、不気味なネックレス。切れ長の目は血のように赤く、ただびとではない雰囲気を纏っていた。しかしながら、誰もが見とれる、魔性の美しさがあった。

「あらあらあら、貴女も一緒なのね、クローディア」

くすくすと、鈴を転がすような、それでいてゾッと背筋が震えるおぞましい声。
クロゼルクはおもちゃを見つけた子供のように笑う。聞いた者を惑わせる妖艶な笑い声に、誰もがクロゼルクに注目する。エイト、ヤンガスはその美しさに圧倒されるも、ドルマゲスと同じ立ち位置ということに気付き、臨戦態勢をとる。ゼシカは最初から警戒していたが、思わず武者震いした。ククールは手負いのマルチェロに夢中で、周りのことは目に入れてなかった。ただ一人、クローディアだけが一人前に出て武器を構えていた。

「ようやく、ようやく貴女に会えることができて、歓喜に打ち震えたわ・・・・・・」

今までにないほどの殺気を放ち、クローディアは右手に持つ錫杖を強く握りしめる。その様子を、目を細め口角を吊り上げてクロゼルクは見つめていた。

「貴女を追い続けてもう何十、何百年という月日が過ぎた。もうそろそろ終わりにしましょう?」

クローディアは言い終えてほんの一瞬の後、床を蹴り上げ、クロゼルクの眼前に迫った。金属同士が諸に当たる鈍い音がして、彼女たちの周りに砂煙が立ち上る。

あまりにも一瞬の出来事で、何が起こったのか、周りの者は口をぽかんとして見ているだけだった。一つ言えるのは、クロゼルクが敵で、クローディアとは深い因縁の関係にあるということ。

「・・・・・・くっ」

床に体勢を整えながら着地するクローディアと、クロゼルクの姿が砂埃の合間からのぞく。

「ほんと、荒っぽいわね・・・・・・。まあいいわ、ここで決着をつけたいのなら、私も本望。我等の邪魔をする者は、今ここで消えてもらった方が良いもの!!」

クロゼルクから、地を這うようなおぞましい声がしたと思うと、じゃらじゃらと金属音が聞こえた。クロゼルクの手には、彼女に不釣り合いなほどの太く、頑丈そうな鎖の束が握られていた。どうやらそれが彼女の得物のようだ。ムチのように長いそれは、もし当てられれば無事では済まない。

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