第7話 ReunionU

そのように二人がそれぞれ睨み合っている中、彼女たちの間に割って入り、仲裁に入った者が居た。気色悪い道化師、ドルマゲスである。

「クロゼルク、今は彼女が目的ではないでしょう。私たちの目的はそこの修道院長なのだから・・・・・・」

薄気味悪く笑いながら彼は言う。

「・・・・・・はぁ、仕方ないわね。ということだから、貴女との決着はまた今度ね。まぁ、貴女の大事なモノ、一つわかったから、今回はそれで良しとしましょう」

そう言い、彼女は鎖を手放す。すると、どこからか現れたどす黒い霧と共に、その鎖は彼女の手から消え失せた。そして、部屋の端の方へと空中を浮遊して向かい、何もせず他者を傍観するかのように佇む。

それを確認すると、ドルマゲスは杖を掲げ、一気に振り払う。すると、衝撃波が気を抜いていたクローディア、ククール、マルチェロの三人に直撃した。

「うぁッ!」

激しい音と共に、彼らはまた壁に打ち付けられる。クローディアは当たり所が悪かったのか、そのまま意識を失った。

「・・・・・・クックック。これで邪魔者はいなくなった」

起き上がったマルチェロは、上半身を起こしながらドルマゲスを睨み付ける。

「くっ・・・・・・!オディロ院長には、指一本触れさせん・・・・・・!!」

その声に応えるように、修道院長は諭すように言葉を述べる。

「案ずるな、マルチェロよ。私なら大丈夫だ。私は神に全てを捧げた身。神の御心ならば、私はいつでも死のう」

そこまで言うと、院長はドルマゲスへと振り向く。

「・・・・・・だが、罪深き子よ。それが神の御心に反するならば、お前が何をしようと私は死なぬ!神のご加護が、必ずや私とここにいる者たちを悪しき業から守るであろう!」

修道院長の発言は、力強い救いの言葉であった。だが、その言葉はドルマゲス、クロゼルクの言葉には失笑ものであった。

「神、ねぇ・・・・・・。そんな不確かでいるかいないかわからないものに、全てを捧げるなんて・・・・・・」

蔑みの眼差しが赤い瞳から向けられた。

「・・・・・・ほう。ずいぶんな自信だな。ならば、試してみるか?」

ドルマゲスはじりじりと空中を漂いながら修道院長へと近づいていく。エイトが前に進み出ようとしたところで、何者かに彼は突き飛ばされた。

「待て待て待てーい!!」

「うわっ!?」

それは、馬車に残してきたはずのトロデ王であった。

「おっさんいつのまに!」

ヤンガスが空気を読まない言動をしたが、トロデは目の前にいる敵に夢中で気付かなかった。

「久しぶりじゃな。ドルマゲスよ!」

さも忌々しそうに彼は道化師の名を口にする。ドルマゲスはわざとらしく恭しい礼をする。

「これは!トロデ王ではございませんか。ずいぶん変わり果てたお姿で」

「うるさいわい!!姫と私を元の姿に戻せ!よくもわしの城をっ・・・・・・!!!」

そう彼がわめき叫んでる間に、ドルマゲスは高く杖を掲げ、禍々しい魔力を集める。紫色の光がドルマゲスの元に集まった。彼は杖に魔力をため込んだのだ。そして、次の瞬間、彼はトロデに向かって杖を放った。

エイトが駆け寄ろうとしたが、時既に遅し。

誰もがトロデ王が死んだと思った。

だが、悲鳴は別の者の声だった。

トロデ王の前にいたのは、オディロ院長その人だった。

「な・・・・・・なんと!?」

トロデ王が唇をわなわなと震えさせ、目の前に倒れた人物を見て目を見開く。一突きで、即死だった。

薄気味悪く笑うドルマゲスに、傍観を決め込んでいたクロゼルクが寄りそう。

「・・・・・・悲しいなあ」

その言葉に、誰もが彼に目をやる。

「お前たちの神も運命も、どうやら私の味方をして下さるようだ。キヒャヒャ!・・・・・・悲しいなあ。オディロ院長よ」

そうしている間に、ドルマゲスの持つ杖から、謎の文字が浮かび上がり、光となって消える。

「そうだ、このチカラだ!・・・・・・クックックッ。これでここにはもう用はない」

上機嫌に言うドルマゲスに、クロゼルクも毒々しい微笑みを浮かべる。

そして、ドルマゲスは天井に近い窓の側まで高く浮遊すると、衝撃波を放った。窓が割れて、冷たい夜風が吹き込んだ。

「・・・・・・さらばみなさま。ごきげんよう」

恭しいいつもの礼をして、道化師は不気味な笑いを残し、満月の浮かぶ夜空に消えていった。

「ふふ、クローディアによろしく伝えといて。『貴女の仲間がまた一人この世から去った』と、ね。それでは、ごきげんよう」

一緒に居た女、クロゼルクも佇むことしかできない者たちに投げキッスをし、黒い霧に包まれその場から消えた。

あまりにも、あまりにも短い間の出来事だった。



そして・・・・・・翌朝、冷たい雨の中、オディロ修道院長の葬儀が行われたのだった。

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