Time's up
クローディアの意識が戻ったとき、既にエイトたちは目覚めていた。
「クローディア!やっと戻ったのね!」
すぐ隣のベッドにいたゼシカが一番先に気づいた。そんな彼女は満面の笑顔でクローディアに抱きつく。
「ええ…………!クロゼルクは!?ドルマゲスは!?うう、痛ッ……」
起きたばかりとは思えない速度で、目の前のゼシカに掴みかかるクローディア。だが、心臓の上を押さえて丸くなる。
「クローディア!」
少し離れた場所に居たエイトやヤンガスも心配して、彼女のベッドに駆け寄る。ゼシカも起き上がった彼女を寝かしつける。
「落ち着いて、クローディア。あなたはドルマゲスの攻撃を受けて、その場で意識を失ってしまったのよ。それで、その後……」
「その後は……?」
三人とも、目をそらしてそのまま黙り込んでしまった。重々しい雰囲気に、クローディアは彼らの言わんとせん事がわかった。
「逃げられてしまったのね」
その一言に、ゼシカが頷いた。
「最後にクロゼルクが、『貴女の仲間がまた一人この世から去った』と言ってたわ』
「そう……、それで他の人は?」
クローディアはそのことをすんなりと受け止めた。それが当然であるかのごとく。ゼシカにこれ以上言わせるのも酷だと思い、エイトが険しい顔つきで続きを話し出した。
「騎士団の人たちも無事では済まなかった。マルチェロ団長もククールも怪我を負って……。それに……オディロ院長が殺された」
院長が殺されたという一言で、クローディアはみるみる顔色を変えた。ただでさえ青白い顔を、更に青くした。
「エジェウスの子が……、何てこと!」
クローディアは蚊の鳴くような声で嘆いた。
「え?」
エイトたちには何を言ったのか全く聞き取れなかった。だが、クローディアの反応を察するに、悪いことだというのはわかる。
「残るは…………いえ、今は彼の者たちを追うだけです」
ふう、と深呼吸をして、クローディアは落ち着きを取り戻す。
「院長の葬儀は昨日行われた。クローディア、君はまるまる二日、目を覚まさなかったんだ」
その言葉にクローディアは目を丸くした。
「二日も……?」
「ここの者が君の治療をしてくれたけど、まるで呪いか何かが君の体を蝕んでるんじゃないか、って言ってた。同じ攻撃を受けたマルチェロ団長やククールは、あの後すぐ意識を取り戻したんだ。それに、……ゼシカ」
「あの、あなたの衣服を取り替える際、……悪気はないのよ。その、左胸に黒い痣があって。それに、背中にも血のような赤い色で、何かの魔方陣みたいのが刻まれていて……」
クローディアは見られてしまいましたか、と呟いた。
「背中の方はずっと前に、私がある魔法を取得する際に入れたものです。左胸は……身に覚えがないのですが……まさか」
そう言って彼女は立ち上がって鏡の前に立つ。前をくつろげて胸の辺りを確認する。
「……なるほど。ふふ、クロゼルクの仕業ね……」
「クローディア、それっていったい何なの?」
ゼシカは躊躇いがちに尋ねる。鏡の前の彼女は忌々しそうに笑って答えた。
「クロゼルクが、私へ呪いをかけたのよ」
「じゃあ、その痣は呪いの印?」
「恐らくは。きっと数日経てばこの痣も広がるでしょう」
それにうげッと声を上げたのはヤンガス。エイトは手を顎に当てて考え込む素振りを見せる。
「ねえ、その呪いって、ここの教会の人たちに頼めば取り除けるんじゃないかな?」
エイトの言葉に、流石兄貴でげす!とヤンガスが声を上げ、ゼシカも顔を明るくする。
「……あのクロゼルクの呪いが簡単に解けるとは思えませんが。ここのトップに頼んでみましょう。ですが、その前に院長のお墓にお参りしなければ……」
そんなとき、誰かが部屋の戸を叩いた。間をあけずにカチャ、と音を立てて入って来たのはククールだった。
「クローディアも目が覚めたみたいだな。……葬式の前にも言ったが、オディロ院長の死のことはあんたたちの責任じゃない。むしろ、あんたらがいなかったら、マルチェロ団長まで死んじまってただろう。礼を言う」
すると、ククールは廊下を指さした。
「……さて。その聖堂騎士団長どのがお呼びだ。部屋まで来いとさ」
彼は言い終えると退出際に振り返り念を押した。
「じゃあな。オレは確かに伝えたからな」
ククールが出て行くと、男女に分かれて着替えを済ました。その後、皆は騎士団長の部屋へと向かった。