A new companion

リーザス村を発ち、港町ポルトリンクに向かう。エイトやヤンガスとこれまでの旅についての話をしながら歩いていた。

暫く歩くと、海が見えてきた。白い砂浜と、岩場があるそこに人影はなく、その代わりに海に住まう魔物があちらこちらに居た。道なりに歩いているため、それらとの接触はないが、リーザス付近よりも少し近辺の魔物が強くなっていた。エイトがブーメランで全体を攻撃し、ヤンガスがオノで一体ずつ仕留めていくスタイルで、こちらが受ける被害は最小だった。

クローディアが錫杖を出す前に彼らが仕留めてしまうので、彼女は未だに戦闘に参加していなかった。だが、女性だからなるべく後ろにいてくれとのことを伝えられていたので、そこまでして前にでしゃばる必要はないと思っていたのも一理ある。



そんな感じで歩みを進めていると、ポルトリンクの入り口が見えてきた。白いアーチが入り口だとリーザス村で聞いたので、すぐわかった。

「これで南の大陸にいけるね」

「南の大陸には、アッシの故郷とアスカンタってぇ王国があって、……後は三大聖地の一つがあると聞いたでげす。山賊上がりのアッシには殆ど関わりがないでげすから、詳しくは知らないでげすよ」

ヤンガスが簡単な説明をしてくれた。クローディアは、だいぶ昔にその聖地の一つに訪れたのを思い出した。

「三大聖地の一つとは、マイエラ修道院でしょう。孤児院があり、そこの院長が大層素晴らしい方と聞き及んでます。あと、あの辺りは数年前に流行り病が流行して、沢山の人々が亡くなった地でもあります」

クローディアの口から、すらすらとマイエラ地方について語られた。そのことに、一緒に居た者たちは目を丸くした。

「凄く詳しいね。その辺りの出身?」

「いえ、数年前に訪れたことが有るだけです。その時にあった少年が元気だと良いのですがと、心配していたのでつい……」

「そうなんだ……。もし向こうについて、時間があったらその人に会いに行っても良いよ。居場所知ってれば……だけど」

エイトは気を利かせてくれたが、実際には数年前ではなく、十年以上前のことである。彼の見た目もほぼ変わっているだろう。探して会うというのは至難の技である。

「ええ、時間があったらね……」

クローディアは、残念そうに微笑みながら返事した。



ポルトリンクに入ると、第一に広場の中心にある噴水に目を引かれた。港町なだけあり、潮の香りが海風に吹かれてやってくる。船着き場は灯台のように高い建物の中から入る仕組みになっており、どうやらその中で手続きをするようだ。

早速エイトとヤンガスと共に船に乗るための手続きをしに向かった。だが、そこに至る途中で、船は海航路に魔物が現れるために欠航するという話を聞いた。エイトはすぐにその人たちに話を聞く。だが、やはり欠航しており、暫くはどこにもいけないそうだ。そして、ある人物からは海の上を歩く道化師を見たという話を聞く。

「どうしよう!?これじゃあドルマゲスを追えない……」

「どうするでげすか、兄貴……」

エイトはショックを受けて取り乱してしまった。ヤンガスはオロオロとするばかりでどうにもならない。クローディアはそんな彼を落ち着かせようと優しく声をかける。

「落ち着いて、エイト。とりあえず、乗船の受付まで話を聞きに行きましょう」

「あ……、ああ。そう、だよね。ごめん、つい焦っちゃった……」

彼は諭されてハッとする。

「焦る気持ちはわかるけど、何故そうなったのかを、噂じゃなくて本人たちに確かめなくては……」

「ごめん、……早く確認しにいこう」



そして、受付まで向かうと、エイトにとって見覚えのある人物が先客として居た。

「あれは、アルバート家のゼシカ……」

エイトが、赤茶色の毛のツインテールの娘を見て言う。クローディアも彼女の声に聞き覚えがあった。教会で祈りを捧げていたとき、途中で入ってきた娘である。

「知ってるの?」

クローディアは彼に尋ねる。エイトは何とも言えない表情をしており、ヤンガスは嫌な顔をして口を開かなかった。

クローディアは、ここの支配人らしき人物と言い争うその娘の姿に、どうしたものかと頭を抱えた。どうやら、船を出してほしいと駄々をこねるように怒鳴り付けている。支配人の方は、海に危険な魔物がでるため、危険をおかしてまで航海できないし、ここポルトリンクを仕切っているのはリーザス村のアルバート家。つまりはそこのツインテールの娘、ゼシカの家である。アルバート家のお嬢様である彼女を危険な海に連れ出すなど、絶対不可能である。

すると、ゼシカは辺りを見回して話の通じる者が居ないかと探してるようだった。運が良いのか悪いのか、こちらを見つけたようで彼女はツインテールを揺らしながらやって来た。

クローディアは遠くから見ていて思っていたことがある。ただでさえ大きいのに、これまた胸が強調された衣服だなと、場違いなことを。『それなりに私も胸はある……よね?目の前の彼女ほどではないが、それなりに……。そうだ、無いわけがない。今は邪魔になるから、さらしで潰してるだけだ』などと小さな対抗心を持ち、考えてる間に話は進んでいたようで。

なにやら、エイトたちはその大きな魔物の退治をすることになってしまったようだ。側に付き添っていたクローディアもちゃっかりその討伐に加わっていたのには驚いた。見ず知らずの人間によくまあ頼めるものだと、エイトたちは何か関わりがあるようだが……。そして何故だか「お兄さんも宜しく!」と、男扱いされていた。いくらローブを着てフードを深く被っているため顔が見えないとは言えども、誰かが女だと注意を促してくれれば良いものを。そして、『いや待て、私は女だ』などと突っ込む暇もなく、あれよこれよと話は進み、気づけば出港した船の上に居た。

ここで言いたいのは、彼女は戦闘ができないわけではないということだ。別に魔物を倒すなど構わないけれど、見ず知らずの関わり無い人間に、命をかけてまで倒しに行く義理は無いと言いたかったのだ。まあ、エイトたちの仲間になった以上仕方ないと言えば仕方ないのだろうが。

「クローディア、君は後ろに居て良いよ……」

エイトは疲れた様子で言うが、当の彼女に退く気は更々なかった。無理やり押し付けられ、挙げ句には男だなどと言われた。こうなったらとっとと片付けてしまおうと、動きずらい上着を脱ぎ捨て、意気込んだ瞬間。

ザッバアァァンと大きな音をたてて水しぶきがあがる。そこから現れたのは真っ赤で大きなタコとイカがミックスしたような魔物だった。

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