A new companion V

海は平和となり、波がゆらゆらと太陽の光を反射してキラキラとしている。先程の筋肉がムキムキな支配人の男は、倒したことに大喜びで、港に帰る意気揚々と言った。彼の下で働く海の男たちもそれぞれ喜びの声を上げて、港に帰る支度をし始めた。

「はぁ、何とか終わったでげすなぁ」

汗を腕で拭いながらヤンガスがため息をつく。

「クローディアのおかげで、本当に助かったよ。君、とっても強いんだね……。凄く驚いたよ」

「……あれは、その……。……ああ、どうしましょう、昔の癖が……」

クローディアは先の戦いを思いだし、困ったように言うと、後ろから戦わされることになった原因が現れた。

「三人とも、本当にありがとう!まさかあんな大きなのを倒しちゃうなんて……。正直どうなるかと思ってたけど。でも、おかげでドルマゲスを追うことができるわ!」

跳ねるような勢いでゼシカは語る。若い子の勢いに推される三人は、魔物との戦いで疲れて、抗う気力がなかった。

「自己紹介がまだだったわね。私はゼシカ。ゼシカ・アルバートよ。あなた方は?」

「……アッシはヤンガスでがす、こっちはアッシの兄貴であるエイトの兄貴でげすよ。そこの金髪の姉ちゃんは……」

ヤンガスが続けようとしたところ、クローディアはそれを手で制し、自分で名乗った。

「私はクローディア。れっきとした女よ」

ゼシカは、先程の戦いの前に彼女がマントを脱ぎ捨てた際、見えた彼女の容姿に「女だったの!?」と驚きをみせた。身長がエイトと同じぐらいで、顔もよく見えなかったために男だとばかり思っていたのだ。おまけにスカートをはいており、それには深いスリットが入っていた。よく見ると、男にはない胸の膨らみもあり、女だということを思い知らされた。近くで話すと、普通のよりは低いかもしれないが、間違いなく女の声だった。顔もよく見るとなかなか目鼻立ちがしっかりとして、それなりに美人だろうことがわかる。髪と同じ金色の瞳が彼女に威圧感を加え、ゼシカよりも年上だということをひしひしと感じさせた。

「あ……と、ごめんなさい。さっきの見た目だと、男の人だとばかり思ってて……」

ゼシカは申し訳なさそうに目線を下げて謝る。

「……良いのよ、その方が旅はしやすいもの。女の旅は大変だからね」

「……そう、なんだ。……あ、塔での約束忘れてたわ。後ろの二人とも、盗賊と間違えちゃったこと、ちゃんと謝らなきゃね。すんませんしたーっ!」

そう言うと、船長に用があると言い、彼女は船の中に入っていった。

「はぁ、これで少し静かになるでげすな……」

ヤンガスは、そう言うなり寝転がった。エイトも床の上に座って、ポケットの中で飼っているというネズミと共にくつろいでいる。クローディアは、錫杖を元の指輪に戻すと船の手すりに寄りかかった。青い空にある太陽は日暮れへと近づくことを示すように西へと傾いていた。随分と時が経つのは早いものだと、今更ながら感心する。

船が出発したのだろう、少しずつ陸地が近づいている。明日の朝には出発できるだろうと、そう思いながら目を閉じて海風をその身に浴びた。

その後、船長からの伝言をゼシカから伝えられた。明日の朝一で出航すると言われ、魔物を倒してくれたお礼にタダで乗船して良いと許可をもらった。金銭的に大変な彼らにとって、タダほど嬉しいものはなかった。そして、その日はポルトリンクの宿でゆっくりと身を休めた。



明朝、エイトたちと共に船に乗り込もうとした時、後ろから声をかけられた。振りかえると、そこにはゼシカがいた。

「あの、エイトたちにお願いがあるの。あなたたちもドルマゲスを追ってるでしょ?だったら、旅の目的は一緒なんだし……」

ゼシカは一呼吸おいて続ける。

「私もエイトたちの仲間にしてくれない?こう見えても魔法使いのタマゴなの。クローディアさんほどじゃあないけど、きっと役に立つわ」

「えっと、……どうしよう」

エイトは、一人では決められない。ヤンガスは彼の決めることに反対しない。トロデに相談しようにも、町中で彼を出すわけにはいかない。さあどうしようかと思ったとき。

「私は歓迎よ」

いつも通り黒い上着をまとったクローディアが声をあげた。

「私はいつかあなた方と違う道に進む。ドルマゲスを追うわけではないから……。ゼシカが入れば、私が抜けたときの穴は小さい。この子からはとても素晴らしい魔法の才能を感じる。言うことは間違ってない。経験を積めば、優れた魔法使いになるわ」

優しい声色で、彼女は告げた。その言葉に、ゼシカはパッと顔を明るくする。エイトも彼女に迷惑をかけられたが、ドルマゲスを追うという目的は同じ。人手が増えれば、奴を倒すのも容易くなろう。

「わかった、ゼシカも仲間に入ってくれると助かるよ。でも、くれぐれも一人で突っ走るような真似はやめてくれよな」

エイトは困ったように笑って言う。当のゼシカは、満面の笑みで喜んだ。

「うん。きっといい旅になるわ。これからよろしくね!」

「ああ、よろしく頼むよ」

エイトは、そう言って手を差し出す。握手を交わすと、ゼシカが船の方へと向かった。

「さあ、それじゃあ早速出発しましょ!」

ここで新たな仲間、ゼシカが加わった。最初はとんだボンボンのお嬢様かと思ったが、意外に普通の娘だということがこの船の中であきらかになった。



そして、彼らを乗せた船は南の大陸に向かって出航した。そこでも新たな出会いと邂逅が待っているのだった。

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