Talks about the old days
ゼシカを仲間に加えた一行は、南の大陸へと向かう船に乗り、ドルマゲスを追いかける。乗船中には、ヤンガスがどうしてエイトの仲間になったのかという話をしてくれた。そうすると、一緒に旅をしているクローディアにも自然と話が回ってくるわけだが。
「そう言えば、クローディア……は何で旅を?ドルマゲスを追いかけているわけではないのでしょう?」
ゼシカは不思議そうに尋ねる。
「……はぁ、あまり話したくないのですが、ここまであなた方に赤裸々に話されては、私だけ話さない訳にはいきませんね」
クローディアは小さなため息をつくと語り始めた。
「詳しいことを話すわけにはまいりません。ですが、ある程度はお話しします。まず、私はドルマゲスではありませんが、ある人を探しているのです」
「ある人って?」
ゼシカが興味津々に聞く。
「クロゼルクという名の女です」
「クロゼルク?」
皆はその名を聞いても頭にはてなを浮かべた。今までそんな名前の人物を聞いたことがないのである。
「それで、何でその女をあんたが追いかけるんでげすか?」
ヤンガスがこの場の三人の中で、最も聞きたかったことをクローディアに尋ねる。
「…………それはお答えできません」
「どうしてだい?」
エイトが驚いたように言う。
「とてもお話しできるような代物ではありません。よほどの事情が無い限り、この先を語ることはないでしょう」
「そう……。ごめんなさい、あなたの事情も考えずに……」
ゼシカがこれは恐らく聞いてはいけなかったことだと察し、しょぼんとする。クローディアは口を引き結んで動かなかった。
「すまない……。でも、そのクロゼルクとやらはどこにいるのか、わかるのかい?情報とか……」
エイトは、話題を少し変えてみた。
「彼女は膨大な魔力の持ち主です。その気配を辿ることができれば良いのですが、生憎途絶えてしまい……。今は手探りです。そして、この前トラペッタの占い師に占ってもらったのです」
「それで何かわかったんでげすか?」
「……結果、あなた方二人、エイトとヤンガスという二人の旅人と共に旅をせよ、ということを言われました」
「僕とヤンガスと?」
エイトは目を丸くした。自分と旅をすることに何の意味があるのかわからなかったのだ。
「あなた方についていけば、探してるものは見つかるだろう、と言われたので す」
クロゼルクなんて女は、二人は全く聞いたこともなければ見たこともない。そんな知らない女の手がかりに、何故自分達が関係あるのか彼らにはわからなかった。
「今の私の手がかりはそれだけです。それ故に、あなた方に同行させていただきました。リーザス村で、急にお願いしたのはその為なのです……」
「なるほど……。確かに、あのオセアーノンと戦ったのを思い出せば、君は一人で旅をしていても問題ない強さだったよね……。僕らと比べ物にならないほどはるかに強い。それなのに何で僕らに同行をお願いしたのか……、これで納得したよ」
オセアーノンと戦ったとき、クローディアは彼ら二人よりも遥かに手慣れた動きをしていた。そして、最後に放った魔法。あの圧倒的な魔法は、素人ができるものではない。
エイトが、最初に出会ったときの彼女の様子では、まだ旅に慣れてない娘のように見えていたのだ。ところが、実際に彼女が魔物と戦ったとき、逃げも隠れもしなければ、自ら前に出て戦った。それは旅を始めたばかりの者がすることではない。彼はそう確信していた。
「初対面の方に、こんな事情説明しても意味がわからないでしょうから、あえてこのような嘘をつきました。ごめんなさい」
クローディアは頭を下げた。そんな彼女にエイトは急いで顔をあげるよう言う。
「いやいや!今言ってくれたわけだし、そんな頭下げなくて良いよ……。オセアーノンのとき、クローディアが居なければどうなっていたことか……。こちらは助かってばかりだ」
「……クロゼルクの新たな手がかりが見つかるまでは、ご一緒させていただきます。それまでよろしくお願いします」
彼女はそう言うと、船の中に入っていった。
「不思議な人ね、クローディアって」
ゼシカがぽつりと呟いた。
「ああ、なんか僕らとは格が違うような……」
「あっしもそう思うでがすよ。あの姉ちゃんは、凄い人間っていう感じが漂ってるでげす」
それぞれ三人が彼女に思うことを述べる。共通しているのは、ただの人ではないということであった。