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薄暗い路地裏。青いポリバケツからはいくつものゴミがはみ出ていて、小バエが集っている。
入らないや…。自身の手に持つ、これからゴミとなるお菓子の居所が無くなって大きなため息をついた。
このお菓子屋でバイトを初めて数ヶ月。自分の夢であるパティシエに向けて、店内に並べられるお菓子を作ろうと毎日残って開発しているけれど、今日も先輩にダメ出しを食らって失敗してしまった。
…どこがダメなんだろう。何が正しいのか分からなくなってきた。…捨てるか。
ガタン、と音がして肩が跳ねた。もう日も落ちて暗い路地裏。目を凝らして見てみると、大きなポリバケツの隣に人が座っていた。
今にも死にそうな声で。
「腹減った…もう動けねぇ…」
それを繰り返す。ゆっくりと近づいて見ると、彼は目を輝かせて私を見た。
「なぁ、それ貰ってもいいか?!」
私の手に持つお菓子を指す。
「…でも、これは失敗作で…」
「食えりゃなんでもいいんだよ!頼むよ…昨日から何も食ってねぇんだ」
そう言われると引き下がれない。恐る恐る差し出せば、猫のようにガツガツと飛びついた。
「うま…っ、うめぇ…!」
そればかり繰り返して、よっぽどお腹すいていたのだと思う。
「うめぇ!うめぇよこれ!」
「…そう、かな…」
綺麗に空っぽになった容器を見て驚く。一瞬のうちに無くなってしまって。こんなに美味しそうに食べてくれる人がいるなんて。
「じゃ、俺行くわ。いやー助かったぜ。さんきゅーな!」
満足したのか、彼は立ち上がって背を向ける。スラリと伸びた足に、長いロングコートが靡く。少し、寂しいと思ってしまった。彼が振り向く。
「なんか知らねぇけど、もっと自信持てよな!マジで美味かったぜ」
ストン、と心に落ちた言葉と笑顔に、私の視界が明るくなっていく。なにも動けなかったけど、私は彼に出会って救われた気がした。