第0松


幼馴染みがいるっていうとそれはもう友達からは羨ましがられ、それが尚且つ男だって言うとラブロマンスな妄想物語を聞かされたりもした。
意地悪で、ドSで、何だかんだでちょっかいかけてくる。あんな人絶対好きになんてならない!でもどうしよう気が付いたらドキドキがとまらない、少女漫画的展開?
本当は小さい頃からずっと好きだけど、この関係を壊したくないから一歩を踏み出せずにいる。ああ、この笑顔が見られなくなるならずっと幼馴染みの関係でいい!ていう乙女的思考?

そんなもの遠いも遠い。ほど遠い!
私の幼馴染みはニートでアホで、おでん屋さんの代金を踏み倒すようなクズ。そしてそんなクズがなんと、6人もいるのだ。


はぁ....。全くため息が止まらないよ。
しかも、今まさにその幼馴染みの六つ子とおでんを食べに来ているところなのだ。今日だってきっと、結局私がおでん代を払う事になるんだよ。



「はぁ.....。て、痛いっ!ちょっとおそ松!殴らないでよ!」

「なにため息ついてんだよー。折角の酒が不味くなるだろー」

左側の頭に突如きた激痛。あろうことかこの長男、ため息をついただけで殴ってきた、
女の子の頭を殴る、普通?しかも思いっきり、躊躇いもなく!


「だからって、殴ることないでしょう!?」

「うっさいなー。こんなんでもちょっとは花が増えるかと思って誘ったけど、うるさいだけだったな」


うるさ.....!?自分からしつこく誘っておいて、うるさいだけなんて、ほんっとに失礼きわまりない奴!てか食べ終わった牛スジの串、私のお皿にいれないでよ!



「おそ松兄さんうるさいよ。」

「静かにして。つば飛ぶ。」

「ため息!?悩み事!?野球する!?」


ジロリと目線をやると、関係ないですって顔してそれぞれおでん食べたり。私が睨んだ事すら気がついてないんじゃないかってくらい、関係ないって顔してるし。もう!君たちのお兄さんなんとかしてよ!てか、唾ってなによ。そりゃ、飛んだらまずいけど、気にする事、他にあるでしょ?かわいい幼馴染みが思いっきりぶん殴られてるのに、心配のしの字もなしですか?

というか昔から、六つ子の私への扱いは酷いものだった。というか私は昔、この六つ子にいじめられていたといっても過言ではないと思う。彼らいわくただ遊んでいただけ。子供の戯れ。っていうけど、足をかけられて転ばされる事なんて日常茶飯事だったし、ブスだの馬鹿だの酷い言葉だって日常茶飯事。そういえば、お気に入りのくまのぬいぐるみをメチャクチャにされたこともあった。幼い私は何度泣かされたことか。

ていかそうだよ。そんな事されてしかも殴られて、おでん代払ってあげる必要なくない?
いつもはちび太さんに申し訳なくて払っちゃうけど、ちゃんと考えればそんな仲じゃないもん。
そうだよ、もう帰ろ。自分の食べた分だけ払って帰ればいいんだ。そう思って立ち上がろうとした時、



「大丈夫だったかい、ハニー。フッ、ハニーのかわいい頭にたんこぶなんて出来たら大変だからな。」


ぽんぽん、と右側の頭に乗せられた温もりと、本当に心配そうなその表情に私は再び椅子に座り直した。




――――私の幼馴染みは意地悪でクズでニートで、少女漫画とも乙女的思考ともほど遠い。....けど、貴方のそのさりげない優しさに私はドキドキしちゃうのです。


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