容さぬ蒼天

結果的に、松田さんはきっちりラスト1秒で爆弾を解体してくれた。無事に地上に降り立った私は、酸素を胸いっぱいに吸い込む。あぁ、生きてる。彼は報告があるとかで、私にここ動かないように伝えると仲間の元へ走っていった。爆弾騒ぎにあやかってめっちゃ人だかりができてるし目立つから嫌なんだけど。犯人のヒントはギリギリ2秒間は見れたけど素人の私には何を示しているのかさっぱりわからない。こういう時は物好きで得意な人物に頼るのが一番である。

爆弾魔から仕入れた情報をぽちぽちとメールに入力し、件名を"大至急"に変えていると、手元を松田さんが覗き込んだ。

「何してんだ?」

「謎解きが大好きな知り合いがいるんだけど、その人に解いてもらおうと思って」

「こういうことは警察に任せろ。あんたもその友人も自ら危険に飛び込む必要はねぇよ」

「乗り込んだ船だもん、最後まで関わっておきたいじゃん」

「依のとういうところ、嫌いじゃないぜ」

ポンポン、と頭を撫でられた後は事情聴取となった。何でも私が乗る前に、犯人がその観覧車に乗りこみ爆弾を仕掛けた可能性が高いらしい。降りてきた人の顔は見たかという質問に、記憶を探った。確かに私が乗る前に一人陰湿そうな男性とすれ違ったけど、果たしてその人が犯人なのかは分からない。

「眼鏡の優男だったと思う。ペタッとした髪の毛で、不健康そうかな」

「他に特徴は?」

「うーん…痩せ型。ちょっと出っ歯だったかもしれない…」

ない頭を絞って考えたが、元々人の顔を覚えることは苦手な方であるし、意識してなかったのでこれ以上は出そうになかった。もうないや、ごめんね、と言うと十分助かった、危ない事に巻き込んで悪いなと言ってくれた。松田さんのこのイケメン具合である。

「あ」

「どうした?何か思い出したか?」

「友達からメール返ってきた。大きな病院じゃないかって。候補としては米花中央病院だってさ」

「一応連絡しとくか。その友人にも礼言っといてくれ」

「うん。松田さんが処理班に戻れるように祈ってるよ」

「今回余計な事しちまったから遠退く気がするけどな」

失敗したと頭を掻いて、咥えた煙草に火をつける。深く吸い込んでいるのか、みるみる煙草が短くなった。観覧車内は禁煙だったのでかなり我慢していたようだ。どうやらさっき報告に行ったところで一般人を巻き込んで無茶をしたと上から判断されてしまったらしい。普段から周りの言うことを聞かずに反感を買っていたようで、そのツケが回ってきたと若干反省している。吐き出される紫煙を見ながら、励ますように松田さん腕を叩いた。

「謹慎で終わるんじゃない?これでもう一個の爆弾も無事に見つけたら松田さんの株上がるだろうし、何か言われたらしっかり松田さんのスパダリ加減を熱弁してあげる」

「依、お前たまに楽観的すぎるぞ」

「あはは!それが取り柄だもん」

時計を見て、そろそろ帰宅を考える。貴重なお休みは爆弾魔のせいで潰されてしまったし、大好きなカメラも一応証拠品として警察に提出することになった。手元に帰ってくるのは早くて半年後だそう。仕方ない、新しいカメラを買って帰るか。

「帰るのか?」

「うん。電気屋さんでカメラも見たいし」

「またカメラかよ」

「去年の型落ち狙うつもり」

「お前、稼いだバイト代全てつぎ込んでねーか?」

「そうかも。三度の飯よりカメラだね」

「程々にな。またコーヒー飲みに行くわ」

「お待ちしてます〜」

営業スマイルを浮かべて一礼すれば松田さんも笑い、そのまま手を振って別れた。まだ事件は終わってないし、松田さんも早く現場に戻りたいだろうと思っての行動だったけど、彼は私の姿が見えなくなるまで見送ってくれたようだ。途中で振り返ると、たばこを指でで挟んだままの手を挙げて、ゆっくり振ってくれた。

その後無事に2つ目の爆弾が発見され、無事に解体作業が終わったとニュースで速報が流れた。同時に松田さんからも"終わった"とメールが来たので、労りの言葉を入れて返信する。ついでに新しくからも購入したカメラの画像も添付しておいた。彼が画面の向こうで呆れる様子が目に浮かぶ。今日は散々だったけど、松田さんにも会えたし充実した休日だったなあとぼんやりと思った。

後日、インフルエンザから全快した萩原さんに、松田とデートなんて抜け駆けだ!許さん!と喫茶店で愚痴られて、爆弾とデートしたかったのかと聞いたら呆れられた上、叩かれた。痛い。