Blue Sea
※リディ少尉の誕生日を捏造しているので注意


「おい」

「ん……?なんだ、?」

朝一番、マリーダの声で起こされた。まだ眠さの残る中、目を開けると目の前に彼女の顔。

「朝焼けと夕焼け、どちらを見たい?」

「へ?うーん、朝焼け……だな」

ぼんやりとした頭の中で何気なく答えたひとことだった。



「待て、ちゃんと説明をしてくれ」

気がつけば車に乗せられ、しかも道路を走っていた。運転手はマリーダ、助手席におれ(リディ)、後部座席にはアンジェロ、キュアロン、セルジ……。いったいなんなんだ、この面子は。そう思い口にすると、マリーダが表情を変えずに答える。

「お前が朝焼けを見たいと言うから、見に行くんだ。バナージと姫様もあとで来る」

「いや、それにしてもどんな面子だよ……」

「貴様は黙って乗っていろ」

後ろからアンジェロの鋭い声が聞こえて思わず身震いした。しかしどうしてこうもネオ・ジオンの連中ばかりなのか。そこに少し疑問が残るが、そんなことよりも眠い。空は薄紫にすらなっていなく、まだ蒼い。周りを走る車もほとんどなかった。
マリーダは車を70キロ近いスピードでとばしている。それでも彼女の運転は安心できるほど上手い。

「もう少しで着くが、眠いのなら今のうちに寝ておけ」

隣でマリーダは言う。ちなみに後部座席のキュアロンとセルジはまだ夢の中で、いちばん端に座るアンジェロが強制的にキュアロンに肩を貸す形になっていた。




車から降りたのはAM5:00。8月だとこの時間は日の出までにぎりぎり間に合うくらいだった。先ほどとは打って変わって空は明るくなってきて、鳥の声がどこからか聞こえた。

「涼しいな」

伸びをしながら隣でマリーダが呟いた。その隣で、まだ眠そうに目を擦るキュアロンを見、アンジェロは溜息を漏らす。セルジは空を見て目を輝かせていて、そんな彼の姿を見てリディももう一度空に目を向けた。

海と空の境目から昇る光。それを包む雲と、オレンジ色の光がまぶしい。朝一番の空気はとてもおいしくて深呼吸をした。

「あっ、いたいた!」

後ろから声が聞こえたので振り返ると、両手を振りながらバナージとミネバが駆け寄ってきた。

「ギリギリセーフ、だな」

マリーダが言うとアンジェロがふんっと鼻を鳴らす。

「朝が弱いなら来なければいいものを」

「大佐がいらっしゃらないから不機嫌なんです?」

そんなアンジェロに言ったのはキュアロンで、これはいつものことだ。

「そういうお前も、眠そうだが」

鋭く言ったマリーダをアンジェロが睨めば「強化人間は黙っていろ!」と素早く言い放つ。……ということは恐らく図星だ。

「まあ喧嘩はやめてくれ。せっかく来たんだから」

再び空を見ると、さっきより少し濃くなったオレンジがここにいる全員を眩しく照らし出していた。

「……で、何でおれを連れ出したんだ?」

隣で姿勢よく立つマリーダにリディは問うた。
マリーダは空と海の境界線……俗に言う水平線をまっすぐに見つめ、「今日は特別な日だろう?」と言った。水平線からはそろそろ、太陽が顔を出す頃。

「……まさか、忘れているのではないだろうな?」

いつの間にか隣に立つアンジェロが慎重な声を出す。わたしですら覚えていたというのに、そう呟きながら彼は眉間にシワを寄せた。

何のことだろう?今日?今日は何日だったっけ。そのとき、ふと思い出した、今日の日付は。

「えっ、まさか!」

思わず大きな声を出してしまって、全員がリディの方を見たものだから、なんだか恥ずかしくなって咄嗟に目をそらした。

「そのまさかですよ?今日は俺たち、リディさんのために集まったんですから」

「自分で忘れるなんて……よほど忙しい日々を過ごしているのね」

それぞれの口から吐き出される言葉に唖然として、「いやぁ、その……」と必死に言い訳を考えた。正直なところまるっきり頭になかった出来事だし、他人の誕生日は覚えていても自分の誕生日は毎年うっかりして気づいたら歳をとっているパターンな気がする。苦笑をこぼし、一度地面に向けた視線を上げると、目の前に向日葵の花束を持ったミネバがいた。

「お誕生日おめでとうございます、リディ。普段は言葉にしないけれど、みんなあなたのことが好きなのよ。だからどうか、あなたもあなたを好きでいてください。それと、自分を大切にね」

そっと手渡されたそれはとても大きな花を咲かせていて、キラキラとしていた。リディの好きな、空を駆ける飛行機も雲もとても似合う向日葵。夏らしい、素敵なプレゼントだった。

「ありがとう……」

普段は厳しいことばかり言うアンジェロも、いつもいじる役に徹しているキュアロンも、真面目が故になんだか堅苦しいセルジも、今は優しい表情を浮かべてリディを見ている。隣でマリーダが珍しく微笑んでいて、少しずつ照れくさくなってきた。

「あっ、陽が出てきました」

セルジが嬉しそうな声を出し、みんなが一斉に海の方を見た。
見渡す限り一面が赤で塗られて、海を照らしながら徐々に日が昇る。その景色を見ながら、リディは鼻の奥がつんとするのを感じた。




Blue Sea


a love potion