Let's cooking!
日曜日、ふたりとも休日である今日、アンジェロはマリーダのために料理を教えることになった。ひとつずつでも何か作れるようになれば助かるのだが、恐ろしく料理が出来ない彼女が出来るようになるとは正直思えない。
今日はいつもの軍服ではなく私服に着替えて、出掛ける準備をしていた。

「アンジェロ、私は買い物にも行きたいのだが」

ちゃっかりと支度まで済ませてそう言うマリーダを一瞥し、アンジェロは頷いた。マリーダがスタスタと先を歩いて行ってしまったので、家の鍵を閉めてから慌てて彼女を追いかける。

「おい、わたしを置いて行くな」

「何だ、男のくせに私に追いつけないのか」

「強化人間のおまえと並の人間のわたしを一緒にするな。それに性別は関係ないだろう!」

アンジェロの言葉に返事をよこさないマリーダに内心舌打ちをしつつも、いつもこんなものだと無理矢理自分を納得させる。逆にマリーダが自分に優しかったら怖いくらいである。

アパートからスーパーまでは近く、気軽に行ける。いつも行っているスーパーなので、レジのおばちゃんに顔を覚えられてしまっていた。そのおばちゃんに「若いのに偉いねえ」とよく言われる。

「ちなみに、今日は何を作ろうと思っているのだ」

アンジェロがマリーダに問いかけると、マリーダは真顔で「カレーライス」と言う。カレーライスといえば、この間柿と桃を入れるという未知のものが出来上がったのをアンジェロは思い出した。あの味の表現の出来なさといったら、恐ろしいこと。19年間生きていて初めて食べる味だった。

「今日はしっかりと野菜を買えよ。もう柿と桃は勘弁だ」

「……わかっている」

痛いところを突かれたのか、不機嫌そうな顔をしたマリーダがカゴを持つ。アンジェロはその隣に立つと、入り口すぐにある野菜売り場へ視線を移した。
パラオ原産のものから、地球からの輸入品までたくさんの種類のものが所狭しに並んでいる。が、アンジェロはいつも必ず値段を見て、地元パラオ産のものを買うようにしている。

「ジャガイモ、ニンジン……だったか?あとは?」

値段も気にせずにどんどんカゴへ野菜を放り込んでいくマリーダを見て、アンジェロは卒倒しそうになった。これだから普段料理をしない奴は……!と内心かなり苛立ち、すぐに「貴様、値段を見ろ!」と大きな声で叫んでいた。

「値段?」

「パラオ産のものを買わなければ、高くつくだろうが!」

今にも「は?」と言いそうなマリーダからカゴを奪い取り、中身をすべてパラオ産のものに替える。普段買い物すらしないのか?と疑問に思うほど、マリーダの金銭感覚は人とずれている。軍人で、しかもパイロットとなれば給料はそれなりにもらえるが、それでも食費は安く済ませたいというのが普通の人の考えだろうに。アンジェロはカゴを片手に、もう片方の手はマリーダの腕を引っ張ってずんずん店内の奥へ進んでいく。

「アンジェロ……!」

マリーダが困ったように声を上げたが、聞こえないフリをして精肉コーナーへ足を運んだ。
ここにも、さまざまなところから仕入れられてきた牛肉、豚肉、鶏肉等が並べられている。

「材料はわたしが選ぶから、見て覚えるのだな」

フンッと鼻を鳴らしたアンジェロが肉をぽんぽんカゴに放り込む。それを見たマリーダは、むすっとした表情でカゴの中を見つめる。

「これが“主夫”か……」

ポツリと呟いたマリーダに気づき、アンジェロが睨みつける。カゴにはカレー用らしい肉がたくさん入っているようだが、マリーダが見ても違いがわからない。

「主夫?誰が貴様の夫だ。ふざけるな」

「独り言だ。真に受けるな」

チッと今度こそ舌打ちをし、アンジェロは調味料やレトルトのものが売られているスペースに足を運ぶ。そこでカレールーの“中辛”を手に取ると、カゴに放り込んだ。ちなみに、“中辛”はアンジェロの好みだ。

「レジに行く。他に欲しいものは?」

「アイスクリーム」

「またか……」

気づけばマリーダがアイス売り場まで行っていて、すばやく買うものを手に取るとカゴの中へと入れていく。それがイチゴ味だとか、ソーダだとか、シャーベット状のものからソフトクリームまでいろいろあるので、アンジェロは思わず顔を歪めた。

「アンジェロは食べないのか?アイス」

「……わたしはいい。甘そうで見ているだけでくらくらする」

「勿体無いな、美味しいのに」

「好みというものがある」

もういいか?と確認を取り、マリーダが頷くのを見届けたアンジェロはレジへ向かう。レジにいたのは、いつものおばちゃんだった。

「あら、今日は彼女さんとかい?かわいい彼女さんだねぇ、美男美女とはこのことね」

「彼女ではありません」

すぐに否定しようとしたアンジェロより先に、マリーダが放った。あまりの早さにおばちゃんも目を真ん丸くし、瞬きを何回かする。

「違うのかね?それにしても、若いっていいねぇ。あたしも若かったらあなたみたいな格好もよくて美しいような男の子と並んで歩きたかったわねぇ」

ふふふ、と笑うおばちゃんはいつもの調子で、アンジェロは小さく溜め息を吐く。
そうこうしているうちに会計が終わり、お金を払ったアンジェロは荷物を片手に歩き出す。後ろをついてくるマリーダが何も喋らなかったのが少々気になったが、変なことを言われるよりはマシだと思い、特に深く考えなかった。


***


「……さて、準備が出来たわけだが」

テーブルに置いたジャガイモ、ニンジン、お肉、カレールーの箱と睨めっこ。隣のマリーダはやる気満々で、いつも後ろにゆるく束ねている髪が今はポニーテールにされており、邪魔な髪は一切ないといった感じだった。アンジェロは普段から使っている小さな薔薇がプリントされた紫色のエプロンを、マリーダは濃いピンク色のエプロンをし、次のアクションを起こそうとしている。

「マリーダひとりで作れるのか?」

野菜をぼーっと見つめたまま固まっているマリーダに問うと、「教えてくれるという約束だろう」と冷たい返事が返ってきた。そうだった、とひとり呟き、買い物に行っただけで疲れきった自分に苦笑する。

「では始めるぞ。まずは野菜の皮むきだ」

包丁を持ったアンジェロは、ジャガイモの芽を綺麗に取ると、するすると皮を剥いていく。マリーダがそれを見よう見まねでやってみるが、ごつごつしたジャガイモに思いのほか苦戦する。

「アンジェロ、おまえ、よくこんなごつごつしたものの皮をむけるな」

「慣れだ」

一言でばっさりと切り捨てると、二つ、三つとジャガイモの皮を剥く。一つ目で苦戦しているマリーダを横目で見ているともどかしくなったアンジェロは、自分の包丁をシンクの上に置いて、後ろからマリーダの手に自分の手を重ねて指導する。

「こうやって剥くんだ。一回しかやらんぞ」

そう言いつつも手のひらを重ねて指導してくれるアンジェロは相変わらずやさしい。彼はなんだかんだいって放っておけない性格なのだろうとマリーダは思った。

「こうか?」

二つ目はマリーダ一人で剥いてみた。剥き終えたそれをアンジェロに見せると、「そうだ、やれば出来るのだな」となんとなく褒められた。心なしか嬉しくなったマリーダは、ニンジンも手にとって剥いてみる。こちらはどこまで剥いても色が変わらないため、剥きすぎないように注意した。
ジャガイモ、ニンジンを剥き終え、お肉のほうもアンジェロが小さく切り分けてくれた。あとは、それらを軽く炒めて、水をほうり込んで煮込むだけ――――。


「アンジェロは、どこで料理を覚えたんだ?」

ふと、暮らし始めてから思っていた疑問をぶつけてみる。きょとんとした顔のアンジェロが口をへの字に曲げてから喋る。

「そうだな……あまりしっかりは覚えていないが、13歳くらいのときからだったと思う。母が死んで、家を飛び出して、いろいろなコロニーを転々とし始めたあの頃からだ。食べるものも満足になかったから、何とか調理して食べられないかと考えたのだろう。それが今ではかなり役立っているがな」

自嘲気味に小さく笑ったアンジェロが、遠くを見つめる。昔を思い出す―――それは、アンジェロにとっても、マリーダにとっても、自虐行為にすぎなかった。

「すまない、嫌なことを思い出しただろう。忘れてくれ」

「……気にするな。避けては通れん道だ。過去にあったことは、所詮過去でしかないがな」

「……それもそうかもしれないな」

たまに、こんなふうに自然と分かり合うことが出来る。それはやはり、同じような境遇だったということも関係しているのだと思う。他人なのに他人とは思えない何かが私たちにはある。そう思うと、マリーダはなぜか安心した。

「しんみりしてしまったな。さて、カレーのほうはどうなって…」

マリーダがカレーを煮込んである鍋の蓋を開ける。真っ白な湯気とともに立ちのぼる“カレーライス”の匂いが、ふたりの鼻腔をくすぐった。

「なかなかおいしそうに出来たな」

マリーダの後ろから鍋を覗くアンジェロが言う。その言葉に頷くと、アンジェロが二人分のお皿とスプーンを持ってきた。お皿にご飯をよそい、その上からカレーをかける。つやのある白米と、部屋中を包み込んだカレーの匂いが、とてもおいしそうで、マリーダはごくりと唾を飲み込んだ。

「……食べたい」

声を発した瞬間にお腹が空腹を告げる音を出した。思わず苦笑したアンジェロが「食べろ」と言ったのを聞くと、カレーライスを口に運んだ。

この間自分が作ったものとは全然違う。とても香ばしく、ちょっぴりと辛いそれは、マリーダの空腹を瞬時に満たす。なんておいしいのだろうか。

「おいしい……」

無意識に口から零れ出た言葉がふわりと宙を舞う。「そうか」と一瞬だけ穏やかに微笑んだアンジェロもカレーライスを食べる。
ふたりで作るカレーライスは、なんとなく特別なような気がして、マリーダは少しだけ嬉しくなった。そういえば、こうやって一緒に何かをするのは初めてかもしれない。そんなことを思い、またカレーライスをひと口食べた。

「アンジェロも、笑うんだな」

「は?」

きょとんとしたアンジェロの顔が、何かの動物に似ていた。あれはなんだろう。小動物だったか?真ん丸な目をしていて、その瞳は大きくて……まあ、いい。

「さっき、私の言葉に返してくれたとき、とても穏やかに笑っていた。初めて見た」

「えっ……」

まさか、気づいていない?視線を泳がせるアンジェロが面白くて、マリーダは小さく笑う。アンジェロは表情がよく変わる。普段何もないときはとてもクールな表情をしていて、黙っていればかっこいい部類だ。恐らく女性にはモテるであろう。だが、大佐のことで何かあれば眉をつり上げて怒るし、眉間にふかーくしわは寄るし、おまけに目が刃物のように鋭くなる。そんなアンジェロの表情を見た女性は大抵逃げるが、それは大佐に関することだけであって、それ以外はものすごく普通の人だ。普通すぎて怖いくらいに。ただ、大尉という階級、親衛隊の隊長という高い地位についているせいか、偉そうではある。だがそれはマリーダにとってもはや慣れてしまったことであり、いつも適当にかわしつつ付き合ってきた。そんな彼が、穏やかに笑っていた。完全に無意識だったようだが、あれは確かに、心からの笑みであったと思う。

「……写真に撮っておけばよかった。なんだか、可愛かった」

「……貴様!」

舌打ちをしたアンジェロが、マリーダに掴みかかろうとするが、力ではマリーダに勝てるはずがない。あっという間に捻じ伏せられてしまった。

「アンジェロ、可愛いというのは褒め言葉だ。素直に受け取れ」

「くっ…ふざけるな!女に可愛いなどと言われて嬉しいわけがないだろう!」

「何だ、大佐にならいいのか?」

「き、貴様!何を……っ!」

大佐の名前を出した途端に顔を真っ赤にするアンジェロ。どこの乙女だ、と冷静にツッコミつつも、ちょっとだけ寂しい気持ちになる。何故だろう、と心中で呟き、胸の辺りがなんだかモヤモヤするような気がして、そんな自分自身が判らず首を傾げた。

「………アンジェロ」

ふと名前を口にしていて、自分でも驚く。はぁ、と小さく息を吐いたアンジェロが今度は冷静に「何だ」と返してきたため、少しだけ戸惑った。

「アンジェロは、私のことをどう思っている?」

「マリーダを?」

「ああ。ただの同居人か?ただの部下か?それとも友達か?……それ以外、か?」

「そうだな……」

いつの間にかカレーライスを食べ終えていたアンジェロが腕組みをして考え込む。彼のこういう真剣な表情は好きだ。……好き?ふっと舞い降りた言葉に疑念を抱く。

「……正直、わからん。だが、出会った頃はただの“強化人間”としか思っていなかったから、それに関してはすまないと思っている」

「……あぁ…気にするな」

ちらと一瞬だけこちらに視線を向けたアンジェロと目が合う。なんだかおかしい。自分じゃないみたいで、嫌になる。いつもの私はどこへ行ったのか。ぐるぐると回る思考は、どんどん自分を自分でなくしていく。何をこんなに考えているのか。何をそんなに恐れているのか。何を……。
常に、アンジェロはやさしかった。私が失敗しても必ず許してくれたし、何かをしてほしいと言えば必ずしてくれる。今日だって、カレーライスの作り方を教えてくれた。買い物にも付き合ってくれた。怒りながらも、いつも私に付き合ってくれる。
そんなアンジェロのことを、私はどう思っているのだろう?アンジェロは私をどう思ってくれているのだろう?
途端にネガティブ思考になったマリーダは眉間にしわを寄せていたのだろう。「おい、難しい顔をしているが、どうかしたのか?」とアンジェロに問いかけられた。

「いや……何でもない、と思う。たぶん……」

今日の私はやたらと乙女だ。さっきアンジェロに乙女と言ったが、私のほうがよっぽど乙女ではないか。まるで恋する―――――……恋?

「そうだな、マリーダはわたしにとって、必要な存在だな」

返ってきた答えが予想外で、俯きかけていた顔を反射的に上げる。必要な存在?曖昧な答えで質問をぼかされたような気がして、マリーダは少しだけむっとした。

「具体的に言えば、おまえがいなければ楽しくない、ということだ。今日も一緒に買い物して、料理をして、冗談を言いつつ話をして……何だかんだいって楽しかった。なんていうか、上手く言葉に出来ないが……落ち着く、といったところか」

前髪をかき上げたアンジェロが、また小さく息を吐く。その頬がうっすらと赤くなっているのを見て、マリーダも顔が熱くなった。

「……それは、これから先もずっと、か?」

「それはわからんな。それ以上にも、それ以下にもなるだろう、おまえ次第でな」

ふっと口角を上げたアンジェロの目を見ると、それが本気だということがわかった。それに、彼は嘘を吐かない。嘘を吐くと離れて行ってしまうということを知っているから。

「……了解した。それ以上になれるよう、がんばることにする」

自分でも分からぬうちに零れ落ちた言葉はそんなことで、マリーダの気持ちを素直に反映していた。肩をすくめたアンジェロが、いつもとは対照的に眉尻を下げて困ったように笑う。

「そんなふうに真剣に言われると、どうしていいかわからなくなるだろうが」

「あっ、すまない……」

ここまできて、マリーダはカレーライスを全然食べていないことに気づいた。冷めてしまったかな、と思ったが、温めなおす気力もなく、そのまま食べることにした。目の前でアンジェロがそれをじっと見つめていて、その瞳がいつもより優しげだったことに気づくと、途端に見つめられていることを意識し始めてしまいどことなく緊張した。
どうしてこんなに意識してしまうのだろう。自分の中に芽生えた訳の分からない感情が、全身を支配する。これが、俗に言う“恋”というものなのだろうか?姫様も、こんな感情をバナージに抱いて生きているのだろうか?人間とは分からない。またぐるぐると廻りはじめた思考が、止まらない。

「なあマリーダ中尉」

不意に階級付きで呼ばれて、はっと我に返る。ネオ・ジオン以外では階級は付けないで呼ぼうとふたりで決めたのに。

「……軍ではないのに階級を付けられると、びっくりする」

素直に零れた言葉に、マリーダ自身も驚く。いつものペースも、いつものカンジも、みんな狂ってしまっている。冷静な自分が今日はおらず、アンジェロにすべて乱されてゆく。

ふっと笑ったアンジェロが、また口を開く。

「なあ、マリーダ。今日はやけに素直なようだが?」

言い直すのは、ずるい。視線をカレーの入っていたお皿からアンジェロに向けると、私の反応を伺っている様子のアンジェロとばっちり目が合う。ほら、また。紫色に輝く瞳に吸い込まれそうになる自分を必死で抑える。

「たっ、大尉だって……今日は、やけに、やさしいじゃないか……。以前もこんなことがあったが、突然そんなふうにされると、何だかペースが乱されるんだ。それだから」

「わたしのせいだと」

「そっ、そうだ。おまえのせいだ…」

アンジェロがすっと目を細める。マリーダは彼を階級で呼んだことにも気づかず、なんとなく目を逸らした。見ていると、見られていると、すべてを見透かされそうで―――。

「まあ、いい。片付けるぞ」

ガタッと音を立てて椅子から立ち上がったアンジェロが流しの方を向いたことに安心して、そっと息を吐き出した。振り向いたアンジェロは食べ終わったまま置かれている私のお皿をひょいと持ち上げると、流しに出す。そのままそれらを洗っている後姿は、やっぱり“主夫”で、少しだけ笑いが込み上げた。
このまま一緒にいられたらいい――なんて。

「カレーライスの作り方は覚えたか?」

突然声が降ってきたことに驚き、思わず前を向くが、アンジェロはこちらに背を向けたままだった。

「ああ。なんとなく、だけど…」

「そうか。また作りたいものがあれば言え。教えてやる」

ありがとう……喉まで出かけた言葉を呑み込み、口をつぐむ。椅子から立ち上がると、マリーダはアンジェロの隣に並んだ。

「私がやる。たまにはゆっくりしろ」

きょとんとしたアンジェロは変わらず可愛らしくて、そんなふうに思うということは、彼のことがやっぱり好きなのかもしれない、と根拠もなく思った。

「では頼んだ。少し、ゆっくりさせてもらうことにするさ」

めずらしく素直に聞き入れたアンジェロがダイニングから出て行くのを気配だけで確かめると、残った洗い物をこなした。


***


「アンジェロ、終わっ……」

洗い物を終え、リビングへ足を運ぶと、ソファにもたれ掛かって寝ているアンジェロの姿があった。やっぱり疲れているのだろう。普段からきっちりと仕事はこなすし、家事はするし、疲れないはずがない。ブランケットをクローゼットから取り出すと、アンジェロにやさしく掛けてやった。
普段、ピリピリしているのが嘘みたいに寝顔がかわいい。睫毛が長くて、肌が白くてキメ細かくて、唇もツヤツヤしていて、ちょっぴり羨ましい。女みたいなのに、れっきとした男で、力は強化人間であるマリーダにはちょびっとだけ劣るが、それでも人並みにはある。

「なっ、何を考えているんだ?私は……」

はっとなって頭を振ると、胸の奥のほうがきゅっと苦しくなるのを感じた。ああ、これだから人間は面倒くさい。心に従おうとすることがどんなに難しいことか。
だけど、アンジェロを見るとなんだかドキドキする。今度姫様に相談してみよう、と考えたマリーダは、この感情をもう少しだけしまっておこうと決めた。



気づいたら、マリーダもアンジェロに寄りかかって眠ってしまっていた。目が覚め、きょろきょろしていると「やっと起きたか……」と迷惑そうな顔を向けられたが、今のマリーダはそんな彼の態度を全く気に留めようとしなかった。




Let’s cooking!
一緒に作る料理は、特別おいしい。
a love potion