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一月頃、仕事に疲れきってくたくたになって職場と家の行き来しかしていない生活をしていた。
当然恋をする余裕なんて無ければ、友人と会う気力すら無いくらいに疲れていた私は、今日も帰宅するなり夕飯を食べてさっさと寝ようとお風呂に入り、さて布団に入ろうか、と歯磨きも終えたとき、インターホンが鳴って思わず顔をしかめた。
誰だよこんな時間に……呟きながらモニターに表示された顔を見る。
眩しいくらいの金髪に、無駄に整いまくった顔が見えて、一瞬で来訪者を察した私は、インターホン越しに声を出す。

「こんな時間に何の御用ですか」

「いや、近くまで来たから寄ってみたのだが」

モニター越しだというのに、キラキラと周りにオーラが見える。もう寝たい身からすると少々鬱陶しいが、嫌いな相手ではない分、断ってしまうのもなんだか気が引けた。
溜息をつきながら玄関に向かい、ドアを開ける。一月の肌を刺すような冷たい風が部屋に流れ込む。

「ここのところは激務で疲れているだろう?」

ふふん、と笑いながら目の前の人はビニール袋を差し出す。中には飲み物やらお菓子やら、なんだか色んなものが詰め込まれている。

「……私、もう寝ようかと思ったんだけど」

「そうか。では、お邪魔するよ」

「は!?」

バタン、と勢いよくドアが閉まる。
自分の家のように上がり込む彼に言葉も出やしない。只今午後11時。私の身体は重さを増し、寝る準備なら整っていたというのに。

「私は寝ますからね、マクギリスくん」

「男がいるのによく寝ようと思うな」

「勝手に上がりこんできたんでしょ……」

リビングでテレビを付けてお菓子やら飲み物やらを広げるマクギリスに溜息しか出ない。だいたい、こんな時間に食べ物を胃にいれるなんて、まず不健康だ。今はこんなに美しい男も、数年後にはきっとお腹が出て太くなったり肌が荒れたりするに違いない。

「私明日も仕事だし、私は寝ますからね」

がちゃり。寝室のドアを閉める。隣の部屋からはテレビの音、彼が愉快に笑う声がたまに聞こえて、なんだか落ち着きやしない。テレビを見るくらいなら、自分の家でやってほしい。若干の苛立ちを覚えたが気づいたら深い眠りへと落ちていた。


***


次の日の朝、まだ薄暗い中起きてリビングへ足を踏み入れると、ソファに首を預けて寝ている大男(マクギリス)がいて、思わず溜息が漏れた。
彼のことが嫌いなわけじゃない。ただ、こうやって自分の家のように勝手に居座っているのが許せないだけであって。しかし、妙に整って魅力的な寝顔だけはいつまでも見ていられる。今日もまじまじと眺めてから、朝ごはんの支度を始める。仕方ないから、2人分。こんな関係にあるのに、私たちは恋人同士でもなんでもない、ただの幼なじみだった。

「マクギリスくん、私、仕事行くけど」

彼をたたき起こして朝食を済ませて、身支度を整えた私は言う。

「ああ。俺も仕方ないから帰るよ」

ニコニコしながらマクギリスは食べかけのお菓子の封を閉じていく。いったいいくつ持ち込んだんだと言わんばかりの量だ。しかもチョコレートばかり。いくら好きとはいっても、少し食べ過ぎではないかと思う。

「また来させてもらうよ」

「……半分押しかけのような感じじゃない」

「まあそう言わずに」

この人はモテるはずなのに、なぜか女の匂いがしない不思議な人だ。私と絡むくらいなら、彼女でも作ればいいのにと何度思ったことか。……しかし彼女を作らないのは、彼なりになにか理由があるのだろうが。

まるで同棲でもしているかのように一緒に部屋を出る。そして道中、道が分かれるまで隣を歩く。すれ違う女性からは視線を感じるというのに、マクギリスは何食わぬ顔で歩いている。気まずいのは私だけか、と思いながら仕事へ向かった。





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a love potion