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「久しぶり」
「ミカ!久しぶりだね〜」
日用品の買い出しにとホームセンターで買い物をしていたら偶然三日月に会った。彼と会うのは本当に久しぶりで、最後に会ったのは半年以上前だったか。
「相変わらず畑頑張ってる?」
「うん。すごく楽しい」
「そっか、ならよかった」
ばったり会ったポイントは家庭菜園コーナー。私はたまたま通りかかっただけだが、三日月は肥料をじっくり眺めていた。
彼の家は農家なので畑をやっている。いろんな野菜を育てているそうだ。三日月自身はどうやら将来農業をやりたいらしく、家の畑を継ぐんだそう。
「そういえばこの間アトラがルネのこと気にしてた、イッスーとどうのこうのって」
「えっ、」
三日月まで知っているとは。まあ、アトラの彼氏なのだ、石動とのことを知っていても無理はない。
「石動とはね、付き合うことになったよ、両想いだったみたい」
「ふうん」
「すごく嬉しくてね、今でもちょっと信じられない」
「そっか」
よかったね、と三日月は笑う。無表情かと思いきや時折笑ったり、ついには怒ったりもする。日頃見るに自分が大切だと思う相手にはとても思いやるタイプなのだろうな、と思う。
「俺、イッスーのことあんまり深く知らないけど、きっとルネのこと大切にしてくれると思うよ。……なんか、そういう感じがする」
三日月の口からこんな台詞が出てくるなんて。しかし、彼は他人をよく見ている。さらに言えば、洞察力が優れているような気がする。
「ありがとう、ミカ」
「うん」
「ミカもアトラと仲良くね?」
「当たり前じゃん」
「そっか。じゃ、お買い物楽しんで」
「うん」
にこりと笑って三日月はこちらを見た。私も微笑み返して、じゃあねと告げてガーデンコーナーを離れた。
***
「きゃー!やったじゃん!」
その日の夜、電話がかかってくるなり何かと思えば祝福の言葉だった。電話の向こうでアトラはきっと顔を真っ赤にして鼻息を荒くしているだろうと、想像すると笑えてしまった。
「なに、ミカから聞いたの?」
「当たり前だよ!いきなり何かと思ったよ!」
「そっか〜、ありがとう」
親友から真っ先に祝福の電話がかかってくるなんて。本気で応援してくれてたんだろうなと思うと嬉しくて胸がいっぱいだった。
「で、告白されたの?」
「……うん」
「どこで?」
「……星が見えるような、展望台って言うのかな」
「やだあ!ロマンチック!」
きゃっきゃっと笑うアトラはとても楽しそうだ。
「えっ、石動さんって意外とロマンチックなんだ!?」
「うん、たしかにそうかも!そういえば、アトラはミカにどんな感じで告白されたの?」
「それ聞いちゃうー?」
「聞いてなかったからさ」と言葉を紡ぐと「えー、」と乗り気でなさそうに続ける。
「いきなりご飯食べてるときにさ、言われたんだよ」
「あ、なんかミカらしいかも」
ぶっきらぼうな彼のことだ。容易に想像がついてくすりと笑ってしまった。
「だからちょっと石動さんみたいな告白は憧れるよ〜」
相変わらずムスッとしていそうな声音でアトラは嘆いたが、個人的にそれはそれで嫌いではなかった。
逆に言えば、変に改まったムードの中で告白の言葉を伝えられたのならそれはそれで緊張してしまうものだ。まあ、そんなことは敢えてアトラには言わなかったのだが。
「まあ、きっと人それぞれだろうし、そんなふうに言ってたってアトラはミカのこと好きなんでしょ?」
「えへへ、まあね〜」
先程までの機嫌はどこへやら、電話の向こうのアトラはもう笑っていた。
私はベッドの上にごろんと寝転がり、「じゃあまたね、おやすみ」と言って電話を切ろうとするアトラに相槌を打って電話を切った。
昨日のことを思い出す度に口元が緩んで、頬が熱くなる。抱きしめられた感触すらまだ覚えている。あと、彼の嬉しそうな顔も。普段なかなか表情を変えないから不安になる彼の、あの緩い下りカーブを描く目がふわりと甘く笑って、きゅっと締まった口元が弧を描いて、私だけを見て、好きだ、って。
誰にも聞かせたくないあの声と、誰にも見られたくないあんな表情。彼のそれは私だけのものだ。
胸の奥がくすぐったいような感覚がして目を閉じた。
このまま眠ったら、彼が夢に出てきてくれるかもしれない。
電気を消すと、窓の外が明るかった。
今日は、満月だ。