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マクギリスがうちに来たのは久しぶりだった。

「久しぶりだね、ここ来るの。お家の方は大丈夫なの?」

「ああ、ここの所は問題ない」

くちではそう言っているが、彼は明らかに疲れている様子だった。目の下も薄らと青く、寝不足に見えなくもない。
とりあえずリビングへ上がってもらうと、相変わらず自分の家のようにマクギリスはくつろぐ。しかし、今日は珍しく酒を持ってこなかったらしい。代わりに持っていたのは烏龍茶。何かあったのだろうか。

「祝福していなかったと思ってな」

「え?」

「石動と、上手くいったそうじゃないか」

「あ、うん、そうなの。なんか、ありがとね」

お礼を言えてなかったので彼が来てくれてよかったと思った。なかなかタイミングが合わずに時間ばかり経っていたような気がする。

「お礼言うの遅くなっちゃってごめん。やっぱり直接言うのがいいかなって」

「構わない。元はと言えば、俺が好きでやったことだ」

そう言うマクギリスはどこか浮かない顔をしていて、いつもの元気は皆無だった。ほんの少しだけ微笑んではいるが、なんだかいつもと違う。

「……マクギリスくん、何かあった?」

耐えかねてついぽろりとこぼしてしまった。まさに無意識。それに対して表情を変えぬままマクギリスは目だけでこちらを見る。「いや、何も」とだけ呟いて。
彼に対して心の奥深くまで詮索することはいけないとわかっているから、それ以上は気付かないふりをした。

「ところで、今日はお酒持ってないんだ?」

話題を変えて話を逸らした。するとマクギリスの眉がぐいっと上がって、普段ほとんどしない、目を大きく開いた顔をする。エメラルドグリーンの瞳がより大きく見える。

「そうなのだ、禁止だと」

「あら、まさかドクターストップとか?」

「そこまでではないんだが……石動ストップがかかった」

「へ?石動に?」

まさかそう来るとは思わず、声が裏返った。
目の前の金髪は裏返った声にほんの少しウケながらもテーブルにやっと持参した烏龍茶を置いた。

「准将はお酒を飲みすぎです、控えてください、このままいけば下っ腹が出てきて肥満体型になりますよ、と、そこまで言われたのさ」

半ば笑いを浮かべながら楽しそうに言うマクギリスに、私も笑いを堪えられなかった。
石動がそこまで言うなんて。よっぽど心配になったに違いない。

「うん、そのくらい言われた方がいいよ。だってたしかにこのままじゃ、マクギリスくん不健康だし」

「……しかし、飲まないことがこんなにきついとは」

「アル中の一歩手前ね」

それでとりあえず烏龍茶を持っているのか、と納得してまた笑った。もしかしてこんなにゲッソリしているのも、なんだかやつれて見えるのも、お酒を飲めていないから?仮にそうだとしたら、かなりまずい状態なのでは。

「大量に飲むのが悪いんだよ、少しなら飲んだっていいんじゃないかな」

「……缶ビールを1本飲むと止まらなくなるんだ」

「あー、そりゃ石動も心配するって」

脱力してテーブルに項垂れる最高にかっこ悪い目の前の男に、「しばらくは烏龍茶で我慢しな」と言い放ってやると、不満そうに彼は唸り声を上げた。


***


マクギリスが帰るなり、今度は石動から連絡が入った。もうだいぶ日も暮れた夕方だったが、石動に会えるならなんだっていい。
会いたい、との事だったが、部屋の掃除なり夕飯の支度なりをしていたのでその旨を伝えると、ここへ来るとの返事だった。
もう石動がこの部屋に上がるのも何度目だろうか。

「おじゃまします、」

彼が部屋に入ってきた途端、嬉しくて思い切って抱きついてみた。驚きつつもしっかり受け止めてくれて、お互い「お疲れさま」と言い合って身体を離した。

「夕飯ね、出来てるよ」

「ありがとう、すまないな」

「美味しいかわからないけど」

「ルネが作ってくれたものなら、美味しいはずだ」

そう言って髪を撫でる手のひらが大きくて安心した。








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a love potion