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「久しぶりっすね、姐さん」

「あ!オルガじゃん〜!」

仕事終わり、ひとりカフェで過ごしていたラフタは、珍しいことにオルガと会った。まさか彼がこんなところに来るなんて。

「誰かと待ち合わせとか?」

「まあ……そんなもんです」

「だあれ?女の子?」

「……いや、昭弘」

「えっ!」

カウンターに座っていたラフタの隣に腰を下ろしたオルガは、店員にジュースを頼む。コーヒーが飲めないなんてお子ちゃまだなあなんて思う間もなく、彼が待ち合わせている相手に驚いた。

「あ、昭弘……なの?」

よりによってあたしが好きなあいつ。
今日もまた相変わらず無愛想なんだろうけど。

「はい。今からあいつとバッティングセンターに」

「やだ、楽しそう」

「一緒に来ます?」

「行く!行くわ!」

せっかく会えると言うなら、一緒に行ってやろうじゃないか。意地でもついて行って、気づかれないであろうアプローチだってかける。いつもしているのに、あいつは鈍いから何も気づかないけれど。

「あ、来た」

オルガの前にジュースが届いたと同じくらいのタイミングで昭弘はやってきた。
相変わらずガチムチで、オシャレなんて一切しないような人。

「待たせたな。あれ、姐さんも一緒なんすか?」

「昭弘久しぶりー!」

「おう、ラフタさんも一緒に行きたいってよ」

「ああ、わかった」

とりあえず座れ、とオルガの隣に座ることになった昭弘は、ほんの少し眉間に皺を寄せてこちらを見る。それはいつもの彼の表情なのだが、初対面の人はきっと取っ付き難いであろう。

「なんか久しぶりだね、こんなふうに会うの」

「たまにはいいっすね」

「そうね」

丁度コーヒーを飲み終わったとき、バッグの中でスマートフォンが振動していたので確認する。電話の主はアジーで、咄嗟に応対すると「今夜暇?」の言葉。

「今からオルガと昭弘とバッティングセンター行くけど、よかったらアジーも来る?」

誘ってみたら、答えはYESだった。即答だ。電話を切ると、オルガが笑う。

「アジーさんも来るんすか?」

「うん、暇だって言うからさ」

「こりゃあ盛り上がるな」

「よし、楽しむか!」

バッグを持って立ち上がると、三人並んで店を出た。


***


「残念。ビールはだめよ」

禁酒令が出たばかりでしょ。そう言うとマクギリスは悔しそうな目でこちらを見た。

「烏龍茶では気が済まない」

「元より、太りたくないと言っていたのは准将の方ですが」

「……石動にそう言われては仕方ない」

はあ。悲しそうに溜息を吐いてテーブルに突っ伏したマクギリスを見て、石動と私は顔を見合わせて笑う。

「私に言われてもやめないのに、石動に言われればやめるんだ?」

「拗ねてるのか?」

「別にそういう訳じゃないけど」

半分冗談、半分意地悪でマクギリスに投げかけると、顔だけこちらに向けた彼は面白そうに口角を上げる。そして手を伸ばして、私の飲んでいたレモンサワーを手に取るとごくごくっと飲んだ。それがあまりに速い動きで行われたことで、止めに入る隙もなく、気づいたらグラスの中身が減っていた、と思うくらいだ。

「こら、ダメだって言ったのに」

「今日は酔いたいんだ」

「……何か、おありでしたか?」

マクギリスの発言に石動が問うた。が、彼は首を横に振るだけで答えてはくれなかった。





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a love potion