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3人で飲んだ帰りに、急な雨に降られてしまった。

誰も傘を持っていなかったので、近くの屋根の下に隠れるもそこそこ濡れてしまい、冷えた身体を温めるために、ここから一番近い石動の家に向かうことになった。しかし途中でマクギリスが気をつかったのか「家まで遠いわけじゃないからな」と帰宅したので、結局ふたりきりだった。

「寒くないか?」

「うん、大丈夫。なんだか、急にごめんね」

「謝る必要は無い」

彼の部屋はいたってシンプルだった。
白と黒を基調とした、大人の男性の部屋だ。無駄なものが一切無い。

「タオル、使うといい」

ふわりと頭に被せられたバスタオル。そのまま離れていくかと思えば、石動の両手がタオル越しに優しく髪を混ぜた。向き合って、真顔で。平気そうに彼はやるので、恥ずかしいのは私だけなのかな、と考える。

「ありがと」

しばらくそうしていて、なんとなく心地よくて目を閉じると、ぴたりと手の動きが止まった。不思議に思って目を開けると、私を見つめる石動と目が合う。また、そのブルーグレイの瞳に吸い込まれそうになり、動けずにいるとゆっくりとそれが近づいてくる。目を瞑る寸前、「キスしてくれるの?」と小さく呟くと、彼は「したく、なった」とだけ言って、柔らかなそれを私に押し付けた。雨で表面が冷えたそれは、一瞬だけひやりと冷たさを共有したが、すぐに内側から熱を持って、甘さへと変えた。

「……っ、」

息継ぎをする間もなく、僅かな隙間から石動の舌が侵入してきた。そのあまりの熱さに少し戸惑いを覚えたが、すぐに慣れた。どれくらいそうしていたか、互いに満足がいくまでくちびるを離さなかった。

「……ルネ、」

「いす、るぎ……?」

乱れた呼吸と、甘さに酔った瞳。その色気に思わず息を呑んだ。酒が入っているのもあるだろう。目の前の私の彼は、今とても雄の表情をしていた。こんな彼、初めてだ。

「……すまない」

困ったように自嘲気味に笑う石動は、さっきまでの彼とは違う、いつもの彼だった。しかし、私には一瞬の、あの彼が、どうにも忘れられそうもなかった。
身体中の熱を発散させるにはどうすればいい?たまらなく、石動に触れたい。そう思ったのも事実だ。

頬に触れていた彼の大きな手のひらが離れていくのをさみしく感じ、思わず私はそんな彼に向かって柄にもなく懇願した。

「もっともっと、キスしてほしい……の」

石動の目が見開かれた。
蒸気した頬は嘘をつかない。好きな人とのキスが、こんなに気持ちのいいものだなんて、私は知りたくなかった。自分でも抑えがききそうもない。
戸惑いながらも、石動はもう一度私のくちびるを見つめて、美しい動作で、ゆっくりと目を閉じて、甘いキスを落とす。リップ音をたてて離して、重ねて、離して、重ねてを繰り返して、じわじわと熱を上げていった。
やがて、くちびるから首筋へと降りて、思わず声を上げた。

「……落ち着いて、ゆっくりと息を吐いてくれ」

言われたとおりにしてみると、だんだんとくすぐったさから甘さに変わる。恥ずかしくなって少し目を開けると、石動はそっと、私を抱きしめた。

「……このまま、今夜は、」

低く、艶のある声で囁かれるだけで私はおかしくなってしまいそうだった。

たまらなくなって、抵抗する理由も、術もなく、私は彼に身を委ねた。とても幸せだった。






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a love potion