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朝、目が覚めるとベッドの上にいた。
見知らぬ天井が見えて、ああ、昨日は彼の部屋で過ごしたんだと、じわじわと実感がわいた。
部屋には石動はいなかった。さすが、規則正しいな。

起き上がると見知らぬTシャツを来ていることに気づき、サイズが随分大きいのもあって「石動のだ」と、服を借りたことを思い出せば少し恥ずかしくなった。昨日、お風呂も借りたんだった、と。
ついに一線を超えたのだ、彼と。思い出すと身体が熱を持つから、なるべく胸に閉まっておくことにした。幸せだった、昨日の夜。どうしようもなく愛しいと思った。

やがて、足音が聞こえて、そっとドアが開いた。石動が顔を出して、私が起きているのを知ると「おはよう」と微笑んだ。

「おはよ、!」

なんだか照れくさい。

「朝ご飯、食べていくといい。丁度今出来たところだ」

「ほんと!?ありがとう!せっかくだからいただきます!」

なんて素敵なんだ!こんな旦那さん、理想だ。いいなあ。
ふと思い、頬が緩んだ。ふわりと揺れる彼の髪は、邪魔なのか後ろで束ねて、更に紺色のエプロンもしていた。それが似合っていて、にやけないようにするのに必死だった。

「簡単なものですまないが」

「とんでもない!素敵!」

ついそんなふうに言うと、石動は意外そうな顔をした。しかし、口数の少ない彼は、何故なのかは教えてくれなかった。
今日の朝ご飯はフレンチトーストだ。ほどよく味付けがされていて、甘くてとても美味しい。
それを食べる私を見つめて、石動は嬉しそうに目元を細めて笑って、優しく髪を撫でてくれた。

こんな朝を迎えられるなんて、なんて幸せなんだろう。


***



「あー、もう、ルネさん?」

「聞いてます?」と不満そうな声が聞こえて我に返る。隣のヤマギが目を細めてこちらを軽く睨んでいた。

「わー、ごめんごめん!」

またやってしまったらしい。頭がぼーっとして働かない。どうりで声も聞いていないわけだ。
彼は聞きたいことがあったらしいが、私の様子を見て先に理由を聞くことにしたらしい。

「また彼氏さんですか?いいなあ」

「え、ちょ、いや、あのねえ、」

「違わないんでしょ?そんなに惚けているなんて、理由が他に考えつきませんから」

呆れたようにヤマギは笑う。わかりやすいことに全て顔に出てしまうことを、私は後悔した。それこそ石動くらいポーカーフェイスになれたら、と幾度となく思っていた。

「昨日何かあったんですか?」

気になる癖に気になっていないフリをしてヤマギは私に聞いた。

「うーんと、その、」

なんて伝えるのがいちばんいいだろう?
あまり直接的に言うのはどこか恥ずかしさがあるし、かといって他にうまく伝える方法を私は知らない。

「……わかりましたよ!ついに、一線越えましたね?」

楽しそうに目を輝かせて、ヤマギは爆弾発言をした。
動揺して椅子から転げ落ちて、「図星かあ」と呟いたヤマギが笑いながら手を差し出してくれた。その手に支えられ立ち上がり、身体中が熱くなりながら「どうしてわかったの?」と力なく問いかけた。

「いやだって、他に浮かばないですから」

ヤマギは満面の笑みで、そう言った。
この後輩は、思ったより怖いかもしれない。




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a love potion