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飲みに行こうと誘われて、当然断る理由もなかったので、付いてきただけだったはずが。

「石動・カミーチェと申します」

目の前の彼は、マクギリスの大学時代の後輩らしい。……とは言っても、私よりいくつか年上にあたる。(マクギリスも私より年上)
とても落ち着いていて、長めに揃えたブラウンの髪が似合う男性だ。印象的だったのは緩く下りカーブを描く綺麗な目の形。比較的凛々しい眉に対してとてもやさしい目をしていて、吸い込まれてしまうかと思った。

「よろしくお願いします……!」

一瞬で魅入ってしまって、慌ててぺこりと頭を下げた。すると彼はふわりと笑って、ぺこりと頭を下げ返してくれた。

「ルネになんとなく紹介したくなった。なんだか、合いそうだと思ってな」

マクギリスは石動の肩をバンバン叩きながら笑う。ほんのり困った顔をしながらマクギリスを見つめた石動は、「准将……!」と嘆く。

「准将?マクギリスくんそんなあだ名あったの?」

たしか階級だよね……?と思いながら口を開くと、マクギリスはにやりと笑う。

「ああ。大学のときのものだ」

「……具体的に言えば、サークルの中でのあだ名です」

お酒をひとくち、口に含みながら石動は言う。飲むペースが随分遅いので、彼はきっとそんなにお酒に強くないのだろう。

「そうなんですね〜。ところで、石動さんはあだ名とかありました?」

「私は特に……そのまま呼ばれていました」

「なるほど」

ピーチサワーを頼んだのは自分だが、口をつけると想像以上に甘くて顔をしかめた。それを見た石動が「甘そうですね」と苦笑しながら呟く。隣でマクギリスが終始ニコニコしている。どうしていつもこんなに楽しそうなのだ、彼は。



気がつけば午前0時を回る頃だった。
お酒も程よく回って、顔が赤いだろう。もともとそんなに強くない。ただ、何故だか石動といると楽しくてしかも落ち着いて、そのせいでひとりで舞い上がって頬を赤く染めたのもバレずに済んだかもしれないと。

「石動さん」

「……石動、で構いません」

「……いするぎ、」

「はい」

ふわり、微笑む彼は美しい。
今日初めて会ったはずなのに、ぐっと距離が縮まったのが嬉しくて私も自然と微笑んでしまう。

「おやおや、私はお邪魔のようだ。帰るとしようか」

そんな所にマクギリスは相変わらず茶々を入れる。私の予想通りに本当に合うとはな、と呟いて。

「え、マクギリスくん帰っちゃうの?」

何となくこの段階で石動とふたりきりは恥ずかしいというか、気まずいというか。こちとら一応初対面なんだぞ、と、そういう意味を込めて目で訴える。

「准将。もう時間も時間ですし、私は彼女を送って帰ろうかと思ったのですが」

石動はとても気遣いに長けている人だ。
今日、この数時間でよくわかった。そんなところにも惹かれてしまったみたい。

「ならばそうしよう、その方がいいかな?」

マクギリスはにやり、とこちらを見て言う。

「……うん、その方が良さそう」

その答えに満足そうに頷き、マクギリスは数歩歩く。

「どちらにせよ私は彼女と同じ方向であるし、ちょうどいい。石動もだろう?」

「……はい、まあ」

「ならばみんなで帰るとしよう」

振り向いたマクギリスはとても楽しそうに笑っている。そんな彼を見、石動と顔を見合わせると少しだけ微笑み合って後ろをついていく。
背の高い彼らに、私は埋もれてしまう。ただ、今は、石動という男の人と出会えたことが嬉しくて、隣を歩いているという事実に頬が緩んでしまう。それに気づかれてしまったのか、石動が「どうかしましたか?」と声を掛けてくれる。

「いや。なんだか嬉しくなっちゃって」

「嬉しい?」

「はい、とても嬉しいんです」

それ以上彼は詮索してこなかった。ただ、私の隣で、やさしい瞳をして頷いてくれるだけだったが、それで十分だった。







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a love potion