03


今日も相変わらずマクギリスは家に上がり込む。

仕事も落ち着いた四月、昼間はだいぶ暖かくなった気候もまだ夜は肌寒い頃。
今夜はたまたま親友のアトラとラフタとアジーが遊びに来ていたのだが、そこへ割り込む形でマクギリスもこの女子会に何故か混ざっていた。
3人とも口を揃えてマクギリスのことを「超美形」だの「めちゃくちゃイケメン」だの褒めちぎるもんだから、彼は調子に乗ってしまう。

「え、でも彼女いるんじゃないんですか?ルネの家にいつも来てるらしいですけど大丈夫なんですか?」

大きな声でラフタは言う。マクギリスはニコニコしながら返す。

「彼女なんていないさ。だから暇つぶしでここに来ている」

「えー!もったいない!絶対モテるのに」

「ねー!アトラ!」とラフタはアトラに話を振る。アトラは困ってしまって、「そ、そうですね……!?」と頷くしかなくなって、アジーが「アトラが困ってるよ」と呆れ顔でラフタに向かって呟いた。

「そういうお嬢さん方は彼氏さんはいるのかい?」

テーブルにそれぞれ置かれた飲み物のひとつを手に取りながらマクギリスは問う。

「私はー、います……」

「あたしは……好きな人なら」

「私はいないです」

アトラ、ラフタ、アジーの順に答える。前者ふたりはなんだか恥ずかしそうに答えるので、マクギリスは「ほう」と笑いながら言う。

「ルネは?」

「……なんでここで私に振るの」

「石動とはどうだ?」

「……な、何もありません!」

突然話を振られた上に、彼の名前を出されて思わず顔が熱くなった。そんなマクギリスの言葉に、ラフタが敏感に反応する。

「えっ!ルネ彼氏いたの?なんで言ってくれないの!」

興奮して顔を赤くしながらラフタは私の肩を掴んで揺らす。

「いないいない!最近ちょっと気になるかなー、くらいだよ」

「うそー!いつの間に!どこで出会ったの!?」

「私の紹介だ」

「なんだってぇ!?」

ラフタの顔が私からマクギリスに向く。アトラとアジーがキラキラした目でこちらを見る。この場をどう切り抜けようか。

「どんな感じの人なの?」

「連絡は取ってるのか?」

アトラはアトラで身を乗り出して私の顔を見つめるし、アジーも気になるのかそわそわしている。
マクギリスはニヤニヤしながら私を見つめて、返答を待っているような感じだ。そんなマクギリスを軽く睨みつけてしぶしぶ口を開く。

「とても落ち着いた人で、一緒にいるとなんだか安心する感じで」

下を向いていた視線を動かし、一度全員を見渡すと興味津々といった感じで話を聞いているようだ。

「……たまに、メールくらいは。でも、会ったのはマクギリスくんと一緒に3人で飲んだきりだから、」

「やーだー!会ってないの?」

再びラフタが私の身体を揺らす。

「会いたければまた飲みにでも誘うのだが」

冷静に割って入ったマクギリスの声。先程までの笑顔は消え、至って真面目な顔で言うので、全員の表情は真顔に戻る。

「……この際だし、また会おうかな……」

しかしそれには勇気がいる。彼の都合だってあるし、まず、向こうが私のことをどう思っているのか、という問題もある。スムーズに事が進むとは限らないから。と、ひとりで悶々と考えている間に、マクギリスは電話を掛けていた。

「ああ、石動。今から少し空いているか?」

……ん?
ちょっと待って。そう思ったときは時すでに遅し。

「わかった。ではそこで待ち合わせしよう」

電話を切ったマクギリスが立ち上がる。

「今から来れるそうだ。ここへ連れてくる」

「はあ!?ちょっと、何言って……」

「会いたいんだろう?」

図星ではある。たしかに会いたいし、もっと彼を知りたいのも事実。困り果てた私を見て、このやりとりを見ていた3人は「じゃ、ここ、片付けないと!こんなに散らかってたらびっくりさせちゃう!」だとか、そんな言葉を掛けてくれる。

「どうしよう……来るって……」

「何か作って待ってる!?私手伝うよ?」

料理が得意なアトラはそんな提案をしてくれて、アジーは食べ終わったお菓子と空のペットボトルを片付けてくれる。ラフタはというと、化粧ポーチを持ち出し、「メイク直しなよー!」と言ってくれた。
石動の家は思ったより遠くない。そうこうしているうちにマクギリスが連れてきてしまうだろう。この短時間でできそうな事は、片付けとメイク直しくらいだろうか?出来あいをなにか用意して待っていたい気持ちもあるが、それだと少しわざとらしいかもしれない。

「アトラごめん!とりあえず片付けするね!ありがとう!」

「オッケー!気にしないで!私も手伝うね!」

散らかったテーブルの上、生活感の溢れ出るリビングルームを少しずつ整頓して、見られても恥ずかしくないように。親友やマクギリスが部屋に上がるのとは訳が違う。まだ一度しか会っていない、それも好きになりかけの異性だ。ここで幻滅されたらアウト。
3人で協力しているうち、私のスマートフォンが着信を告げる。相手はマクギリスだ。

「もしもし」

「今エントランスまで来たが、このまま向かっても大丈夫か?」

「あ……うん。いいよ。っていうか、本当に連れて来ちゃったの……?」

「勿論さ。すぐ隣に……『准将……、やはりこんな時間に……』」

声が聞こえた。本当に嘘ではないらしい。

「りょーかい。4人で緊張しながら待ってますーっ」

着信終了。強制的に切った、が正しい。
心拍数が上がる。実感が湧いて途端に緊張する。どうしてマクギリスはこんなに行動力があるんだろうか。

「今から来るって。もうエントランスにいるみたい」

そわそわしている様子の3人に向かって言うと、揃いも揃って全員正座になる。
彼女らは初対面、私は二度目。どんなふうに思われるかな。それぞれ人に対する感じ方は違うだろうし。
沈黙の時が流れて、お互いに視線を合わせたりしながらその時を待つ。


ピンポーン。


インターホンが鳴る。私は立ち上がる。モニターは確認せずとも相手はわかる。
おそるおそるドアを開けるとまずマクギリスが目の前に立っていた。

「連れてきたぞ」

にんまり笑うマクギリスの後ろに久しぶりに見るブラウンの髪。少し申し訳なさそうな表情で私を見て、「こんばんは、お久しぶりです」と頭を下げた石動。

「どうぞ、上がってください」

平静を装って部屋へ招き入れる。マクギリスはお構い無しにいつも通り上がってリビングへ。石動は丁寧にドアを閉めて私を見る。

「こんな遅い時間に来てしまい、申し訳ありません」

「お気になさらず!今日は私の友だちも3人来てるのでちょっと狭っ苦しいですけど」

「構いません」

彼は微笑んで靴を脱いだ。








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a love potion