04


「初めまして」

礼儀正しく上がってきた石動を見るなり、3人は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
とりあえずマクギリスの隣に招いて、簡単にお互いの自己紹介を済ませたあと、飲み物を差し出す。
そして何故か石動の隣に座る羽目になった私は、どうしたらいいものかと落ち着かない。どうしてもそわそわしてしまって、それを察したのか石動がちらとこちらを見た。

「何か?」

「あ、いえ。何もないですよ!」

そう言って笑って、何とか誤魔化そうとする。それに気づいたラフタが、「石動さん」と声を掛けてくれたので、彼の視線は反対側へ移った。

「彼女さんとかいないんですか?」

「いません。数年前に振られてしまったきりです」

私の背筋が凍りつきそうになったことなんて知らずに、石動は淡々と答える。ラフタはなんて質問をするんだ。直球すぎるせいでハラハラした。

「振られちゃったんですか……」

「はい。どうやらつまらなかったらしく」

「石動、お前は真面目すぎるからな」

「……そうでしょうか?」

ははは、と声を上げて笑いながらマクギリスが言う。石動はいまいちよくわからない、というような顔でラフタを見返し、大きな目をぱちくりとさせて口を尖らす彼女の返答を待つ。

「あんまりグイグイいかなかったってことですか?」

「さあ。自分ではそういうことはあまり分からないもので」

「……まあそうか」

ぽつり、ラフタは呟くと私を見た。そしてウインクを飛ばす。その隣でアトラが目を輝かせているのがわかり、アジーへ助けを求めると小さく頷かれた。

「ふたりともとてもかっこいいのに彼女いないなんて……世の女性は何をしてるのか」

「私は彼女をつくる気がないからな」

ラフタが言えば、マクギリスが即答した。彼は癖である前髪をいじる仕草をしながら、また石動に話を振る。

「石動は彼女が欲しいとは思うのか?」

「まあ、そうですね。そう思える方と出会えたら、ですが」

あまり表情の変化がない彼だが、このときばかりは少し表情が柔らかくなったように見えた。そして一瞬、ほんの一瞬だがこちらを見たような、そんな気がした。



***



「また来たの」

今夜もマクギリスはうちに来た。ここのところずっと会っているような気がする。それくらい頻繁に彼はうちに訪れる。

「一緒に飲んでくれ」

彼は缶ビールと缶チューハイがいくつか入った袋を手に下げていたので、それを仕方なく受け取ると満足そうに微笑んで私を見た。

「わかった、なにか作るからテレビでも観て待ってて」

「ああ」

マクギリスは靴を脱いで上がり、いつものポジションへ座り、私の準備ができるまで待っていた。
私は適当におつまみになりそうな炒め物を作ってテーブルに置くと、マクギリスは待ってましたと言わんばかりに缶ビールを開けた。
乾杯をしてしばらく経つと酔いが回ってきて、マクギリスが観察でもするように見つめてくるのも気にならないほど眠くなってきた。

「……また、石動と飲みに行きたい」

そんな中、無意識に口をついて出たのがこの一言だった。
マクギリスはぴくりと肩を震わせ、上目遣いで私を見る。缶ビールはもう何本も開いているのに、彼は酔っている様子がない。

「そんなに気に入ったか」

「……うん。なんかこう、落ち着くし、……まだ緊張しちゃうけど、もっと話してみたいな、とか」

ふわふわとする頭で、彼を脳内に浮かべる。
昨日会ったばかり、隣に座る彼の横顔がどうしても忘れられない。真っ直ぐに通った鼻筋や、くっきりとした二重まぶた。柔らかそうに揺れるブラウンの髪に手を通してみたい、とまで思った。
見つめられれば穴があいてしまいそうなほど恥ずかしいけれど。けど、彼が私を見る瞳は心なしか柔らかく思える。

「自分から誘ってみればいい」

「……そうなんだけどさ。ふたりきりって緊張するから」

「俺がいたところでそこまで盛り上がるわけじゃないだろう」

「いいのー。お願い、マクギリスくん!」

両手を顔の前で合わせてマクギリスを見つめる。相変わらず憎たらしくなるほどの美しい男を差し置いてこれだ。世間の女子に恨まれそうだ、と思った。

「まあ、いいだろう。お前に合いそうだと連れてきたのは俺だ。行く末をしっかり見つめるとしよう」

「ありがとう!よろしくー」

お皿の上の炒め物はマクギリスが平らげたのでもうない。それでもまだ食べたりないのか彼は自分で持ってきたチョコレートに手を伸ばした。

「眠くなっちゃったよ」

「眠ればいい」

「……あのねえ、」

「俺は気にしない。チョコレート、食べるか?」

突如襲い始めた眠気に負けそうになりテーブルに突っ伏した私の顔を覗き込んで、マクギリスはニコニコしながらチョコレートを差し出してくる。

「……いらない」

「つれないな」

「だってそれ、甘すぎるやつだもの」

「俺は甘党だからな」

また包み紙を解いてチョコレートを口に含む。
ビールにチョコレートが合うとは思えないが、彼はそれが好きらしい。テレビを見つつ、私を見つつ、マクギリスはまた1缶を飲みきってしまった。これで5本目、今夜はいつもより飲んでいるような気がする。

夜は更けていく。
そして今日もまた、私はテーブルに伏せたまま眠ってしまうのであった。








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a love potion